「Rugs&Carpets T's」店舗訪問記
全国の絨毯ファンに愛される知る人ぞ知るペルシャ絨毯専門店「Rugs&Carpets T's」
オーナー独自のコレクティブルピースを楽しむことができ、オールドやアンティークなど年代物の絨毯に触れられます。
マニアックな方にも、これからペルシャ絨毯を知る方にも、オススメの専門店です。
そんなティーズのオーナー玉木さんに独自の絨毯観についてインタビュー!
全国のペルシャ絨毯ファンが足を運ぶティーズの秘密
ーー「Rugs&Carpets T's」のコンセプトを教えてください。
コンセプトは、現在製作されている現行品のペルシャ絨毯ではなく、1979年のイラン革命以前に製作されたペルシャ絨毯を中心に取り扱うことです。
ーーイラン革命以前の絨毯にこだわっている理由はあるのでしょうか?
現在作られているペルシャ絨毯も、当然いいものはあると思います。
ただ、どちらかというと芸術性やクオリティより実用性を追求しているようなイメージが強いです。
1979年のイラン革命までは、パーレビ朝というイラン最後の王朝が栄えていた時代です。
その頃はペルシャ絨毯や建築などペルシャの文化にすごく力を入れていた時代なんです。
ですから本当に贅沢で良い絨毯が多く、僕はその頃の絨毯が好きで自分の決めた層だけをセレクトして仕入れをしています。
ーー現在の絨毯と比較してクオリティの違いがわかるのは一体どのような部分なのでしょうか?
まずはウールなどの素材、そして染色の美しさです。また職人の技術は圧倒的に違うでしょうね。
かつて国王が直接贔屓していた有名工房や産地が、現在は無くなったりしてしまった点もクオリティの違いになっていると思います。
絨毯に限らず「良いもの」の定義が変わってしまった現代において、本当の意味での良い絨毯が製作されることは限りなく少ないでしょう。
ーーインテリアショップや百貨店、ペルシャ絨毯屋で扱われている一般的なペルシャ絨毯はどのようなものでしょうか。
日本で今流通している絨毯は、「クムシルク」と呼ばれるイラン国内のクムという産地で織られているシルクの絨毯、ナインという産地で織られているウールの絨毯、そして「ギャッベ」と呼ばれているカジュアルで素朴な遊牧民の絨毯です。
ーーこれらが市場を占めている理由があるのでしょうか。
大まかに言うと、売れてもまた次の仕入れができるからだと思います。
商売を大きくしようと思ったら安定商材でないと成り立ちません。
もともとギャッベは本当に素朴でペルシャ絨毯に比べてお手軽なお値段でした。今は結びの細かさやデザインも洗練されてペルシャ絨毯とほぼ変わらない値段になってきています。
需要と供給といえばそうかもしれないけど、本来のペルシャ絨毯が好きな僕からしたら何だか不思議な気持ちです。
ーー玉木さんの取り扱っている商品は、現在の市場にある絨毯とはまったく違いますね。
そうなんです。当店で取り扱っている絨毯はイラン革命までに作られた本当に贅沢で素晴らしい絨毯。
ただここまで揃えるのは簡単なことではなく、見つけるのも大変だし売るのもそれ以上に難しい事なんです。
この本当の絨毯の良さを伝えることって本当に難しいことなんですよ。
ーーやはり仕入れは大変なのですね。
そうです。
まずはこれらのペルシャ絨毯を信頼できるルートから仕入れてくるのですが、古ければいいというわけではありません。古くてゴミみたいな絨毯は山のようにあって、その中で本当に良いものはわずか一握りなんです。
ーー宝探しに近い感覚ですね。
そして売るのも難しいとはどういうことなのでしょうか?
「これは古くて珍しい絨毯だから…」と、お客様を見て高く売りつけるようなことは決してしません。
だからこそ適切な値段で仕入れて、適切な価格で販売しようと思うのですが、ものが減っているため難しくなっています。
僕がやっているような一部のペルシャ絨毯を売っても商売にはならないので、どこの商社もやりません。
やらないというか、やりたくてもできないといったほうが正確かもしれませんね。
でも、僕はこのジャンルのペルシャ絨毯が好きだからやっています。一般的に流通している絨毯を扱うなら僕はこの仕事はしていませんね。
トライバルラグ(遊牧民の絨毯)の魅力
ーー玉木オーナーのポリシーがとても伝わります。これからペルシャ絨毯を知る若い世代に向けて、オススメの絨毯を教えていただけますか?
トライバルラグ(遊牧民の絨毯)と呼ばれるジャンルの絨毯はインテリアとしてもおしゃれで使いやすいし良いと思います。
豪華でいかにもお金持ちみたいなペルシャ絨毯ではなくて、田舎の産地やその土地の部族のアイデンティティが込められているような絨毯がオススメです。
例えばこのバルーチ族の絨毯はオススメのひとつです。
ーーとてもおしゃれですね!お部屋のアクセントとしても良いですね。
この「バルーチレッド」と呼ばれる黒みを帯びた赤色が特徴的で、絨毯の長さに対して幅が少し狭いのもバルーチ族の特徴です。
ソファとTVボードまでの奥行きがあまり取れない部屋などにぴったり合うと思います。
昔は良いものをたくさん持っていましたが、クオリティやコンディションの良いものが無くなってきているので今は仕入れるのがどんどん難しくなっています。
ーークオリティやコンディションの良いものがなくなっている理由はあるのでしょうか?
バルーチ族の住む地域はここ数年災害がひどく、とても過酷な環境だったことがひとつにあります。
そしてイランとアフガンの国境なので、国に戻れなくなり難民でイラン側、パキスタン側に逃げるなどしています。
ここ数年よくあるのが、パキスタンの決して良いとはいえない糸を使い作られている絨毯ですね。
できたものは同じ模様ではあるけど、結びもとても甘く、糸も太く、染色も全然違う化学染料で染められています。だからもう似て非なるものができあがってきます。
ーー化学染料で染められた絨毯に、この綺麗な赤は再現できないのでしょうか?
こういう古くて良いものは、ローナスという植物の根から原料を使います。バルーチレッドと呼ばれる、ちょっと黒みがかった奇麗な赤で、化学染料では出せない色だと思います。
ーー地域に根付いた部族の絨毯を買い付けするのはとても難しいと思うのですが、どうやって買い付けているのでしょうか?
もともとバルーチ族はあまり現金を持つ習慣がありませんでした。自分達の羊の毛を刈り取りローナスで染めて絨毯を作り、貯金のようにテントの中に置いています。
お金や物が必要になった時に、バザールに持っていき物々交換をして暮らしているのでテントに案外ストックがあるのです。
昔はバルーチの絨毯を探す人だけを雇い、良い絨毯を集めるためにテントをひとつひとつ回って買い付けていました。
ーー絨毯の仕入れに関してすごくストーリーがあるのですね。
絨毯の仕入れは常にストーリーがありますね。
現地に仕入れに行くにはリスクが高すぎるので、現地の信頼できる人達を介して、絨毯を買い集めることを継続しないといけないんです。
ここまでしてやっと良い絨毯に巡り会えます。
こういうお話をすると、このバルーチ族の絨毯はもうとっくに枯渇したから、うちとしてもなるべくストックを手放したくない気持ちになります。でも、この絨毯を好きになってくれる方がいるなら気持ちよく送り出します。
これからペルシャ絨毯と出会う、あなたへ
ーーこれだけこだわったセレクトだと、お客様はコアな絨毯好きの方になりそうですね。
いやいや、そんなことないですよ。
ごく一部そういう方はいらっしゃいますし、ティーズ じゃないと嫌というお客様もいらっしゃるのは事実です。
ただ、中にはたまたま通りがかったり、当店のブログやインスタを見て来店されたりという方も増えてきました。
僕のブログが面白いみたいで、何年も前の記事まで読み込んでマニアックな問い合わせをしてくるお客様もいますね。
ーー来店して驚かれるお客様が多いのではありませんか?
みなさんがおっしゃるのは、お店の雰囲気や空気感が一般的な絨毯屋とは違うということです。
アットホームでオープンな感じというイメージが近いですかね。
その時は必ず「リクエストをしていただければコーディネートします。おすすめは全部出しますので遠慮せずおっしゃってください」とお話ししています。
確かにペルシャ絨毯はそれなりの値段がするけども、必ず満足してもらえると思います。
現在作られている絨毯は材料費も人件費も高騰して必ずしもクオリティと価格がマッチしているとはいえない場合もあります。
仮にそれが100万円だとして、うちが取り扱う年代の古い絨毯は同じ値段でもその何倍も良い絨毯だよって。やはり素材や技術が全く違いますからね。絨毯選びを楽しんで欲しいです。
ーー絨毯を選ぶ上で大切なことを教えていただけますか?
絨毯の選び方で重要なのは、「どのお店で買うか」に尽きると思います。
当店は僕がセレクトしているわけですが、どのジャンルの絨毯でも良いものを揃えていると自信を持って言えます。ですから安心して好きな絨毯を選んでもらえればと思います。
ーーこちらの本は玉木オーナーが書かれた本ですか?
そうです。ライオンラグをテーマに2007年に書いた本ですね。
現在はライオンラグはトレンドになっていますが、当時はまだ知っている人が少ないジャンルだったと思います。
ペルシャ絨毯を知るきっかけやタイミングのひとつとして気になる方はぜひ読んでいただけたら嬉しいですね。
足を踏み込んだペルシャ絨毯の世界
ーー玉木オーナーがペルシャ絨毯店を始めたきっかけを教えていただけますか?
もともと神戸で百貨店の外商をしていました。
当時、宝飾品・美術品・呉服・毛皮やバッグなど高価で良いものをたくさん扱っていました。そのなかで唯一難しくてわからないと思ったのがペルシャ絨毯でした。
メーカーの人と同席してお客様宅でお話を聞いてもペルシャ絨毯の世界は他とは違って見えて……そこから個人的に興味を持つようになり独立して今に至ります。
創業時から「自分らしい店をやりたい」ということをモットーにしています。
品揃えにしても店の雰囲気にしても、「T’sらしさ」を大切にしたいと思っていて、別に儲からなくてもいいから自分の好きな絨毯を扱おうと。売れる(一般需要のある)絨毯は他にもたくさんあるけど僕らしさを追求してきました。
僕が好きな絨毯ばかりだから「売れても嬉しい、売れなくても嬉しい」みたいな(笑)
要はそれだけ全ての絨毯に思い入れがあるということです。
ーーペルシャ絨毯の世界を全然知らない僕でもどんどん引き込まれてきました。
でも、好きすぎるのも良くないんですよ。こだわり過ぎて「店主がコレクター」というのは商売としては僕は違うなと。
ひとつひとつの仕入れにこだわりを持って集めていると、売れなくても手元にあるだけでいいなって感じてしまうことはあります。
ーーなるほど。コレクターになってしまうと「売れなくても」という感情になってしまいますね。
実は、この感情はお客様も一緒で、やっぱり好きな絨毯を集めたくなるんです。
だから僕はお客様との人間関係をとても大事にしています。
常連のお客様もたくさんいるのですが、僕の代わりにコレクションしてくれているような感覚を持っていますね。
ーーそういう考え方面白いですね。お客様のご自宅に絨毯を見に行かれたりもするのでしょうか?
まさにそうです。そのために何が大事かというとその方との人間関係なんです。
ご飯を食べながら、お茶を飲みながら絨毯を見せてもらえる人間関係。だから時間を見つけては絨毯の様子を見にいくんですよ。
長いこと畳んで置いておくと良くないので、一枚ずつ掃除をしたり乾燥させたり、メンテナンスの意味も込めて、お伺いするお宅もあります。
ーーペルシャ絨毯にも、お客様にも愛がありますね。
そんなに大それたことじゃないですよ。お客様とのお付き合いは大切にしています。「T’sで買ってよかった」そう思ってもらえたら本当に嬉しいです。
素敵なお話ありがとうございました。
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