「renwoodworks-木工房 木蓮-」工房訪問記
今回はrenwoodworks-木工房 木蓮-を訪問し、荒川さんに色々なお話を聞いてきました!
今までとは違う雰囲気の工房ですが、果たしてどんなお話を聞かせていただけるのか楽しみです!
工房設立=木工歴!?自然に魅了された異色の木工作家
ーーこの工房はいつ頃、始められたのでしょうか?
2015年からなので、5年目になります。
それまでは住宅の職人、電気工やペンキ塗り、庭師もやっていました。
ーーそこから木工を始めたきっかけを教えていただけますか?
昔から木を集めるのが好きで、借りている家の四部屋が木で埋まるくらい集めていました。
だからといって「木工職人になりたい」とかではなく、漠然と「木を触りたい」「木が好き」というだけだったんですけど。
それが始まりで、一部屋を作業部屋にして手でオブジェを作るようになったんです。
ーー木が好きで集め始めるって素敵ですね。オブジェは削って作っていくのですか?
そうです。手彫りで作り始めました。
初めてから2ヶ月ほどして、その部屋で作業するのは手狭になり、この工房を借りたんです。元々は資材置き場として使われていた場所で、数ヶ月かけて片付けながら使っていましたが、その後買い取りました。
それで「木工を始めよう」と思ったんです。だから工房設立と木工歴が一緒なんです。
ーー独自に始めてこの作品のクオリティはすごいですね。
今ある椅子やテーブル、キャビネットも全てWEBや本から学んで作った作品です。
やるしかないですから、夜遅くまで休日も正月も関係なくやり続けました。
ーー木工のスタート「木が好きで木を集める」きっかけはなんでしたか?
生まれは、立川のアメリカ村というアメリカ人居住区で、人種のるつぼのようなところでした。6歳で南伊豆に引っ越したのですが、そこの自然が凄かったんです。圧倒的でパワーがあって。それに惹かれ、山に入って木を集めるようになりました。
南伊豆や田舎の方に行くと埋もれているアーティストさんが結構多くて。そういう人達と小さい頃から付き合いがありました。今、思うと衝撃的でしたね。
その頃から漠然と、「いつか僕もモノづくりをする人間になりたい」と考えていました。
荒川さんが提案する有機物をイメージした家具とは?
ーー工房とモノ、全てのタイミングが一致して家具作りが始まったのですね。
作られる家具の特徴を教えていただけますか?
僕は有機的な命を感じられるようなイメージを家具に落とし込んでいきます。
地面から生えているような、湧き出ているようなイメージです。
僕の中でそのイメージは必然のもので、だから四角い家具は作れないんです。
ーー確かに四角という感じはしないですね。
四角という形は機械に依存したものなのかなと思ってしまって。
職人さんの中には、僕がやっていることは「手間や時間がかかり過ぎる」と言う方もいます。でも有機的なイメージを形にするのは、必然的に時間がかかるものなのです。
この感覚は、南伊豆にいたことに強く影響を受けています。今でも伊豆に帰った時は山に入るんですよ。
ーー今でも山に行かれるのですね。山に入って木を探して自分の表現を探している感覚なのでしょうか?
山に行くことで自然と人間の境界線のようなものを強烈に感じて、感覚が研ぎ澄まされます。自然にあるものより美しいものはないと思っています。
偶然ではなく必然的に生まれてくる自然の形が好きなんです。
苔やヒビなど、そういう自然に表現されるものを家具に生かして作っていきたいと思いますね。
独学で始めたことで否定されることも。。。しかしクラフトフェスで一つの道が開けた瞬間
ーー感覚だけではなく軸がしっかりしているからそれが作品に現れているのですね。
今までにいろいろな紆余曲折があったのではありませんか?
たくさんありました。工房を始めた時、僕は何もできない状態でした。
建屋も機械も買って借金を抱え、「どうしよう」と思うことばかりでストレスの連続です。
「早く今の状況を脱却して、自分の作りたいものを作ろう」と最初の2年間は本当に地獄のような毎日でしたね。
ーーそれは家具を作っても売れないということですか?
家具が作れないのでそれ以前の問題です。作り方がわからないのですから。
最初はパソコンで調べながら作っていました。それだけではどうしても不十分だったので「手作り木工辞典」という本や海外の木工雑誌を取り寄せて参考にしていました。
当時作った在庫はお客様に格安で販売していたのですが、ほぼ材料費程度の価格にしていました。本当に辛かった時期です。
でも、その時期があったおかげで技術もついて、自分のイメージしているいろいろな作品を作れるようになりました。
ーー自分が作りたい作品を作り、販売できるようになったのはいつ頃からでしょうか?
2年前くらいですね。はじめの3年間は口コミだけでやっていましたが、なかなか難しい状況でした。2年前に初めてクラフトフェスに出展して好評をいただき、そこからが始まりですね。
ーークラフトフェスではどのように販売されているのですか?
僕は基本的に現物売りではなく、クラフトフェスで受注する形式を取っています。
フェスでご注文をいただき、その後お客様のご自宅にお伺いしてデザインから全てを提案させていただくという流れです。
ーーさまざまなことに対応できるのは強みですね。
個人工房だからこそできる、きめ細やかな対応や柔軟さはうちの売りでもありますね。
ほとんどの場合、職人さんは基本的に木工の学校へ通うと思います。
僕の場合はすべて独学なので、否定されることも。だからこそ逆に、僕は技術面に磨きをかけて、構造体からすべて高い精度で出せるようにしようと作り続けました。
その結果、いろいろなことに対応できるようになったと思いますね。
ーー辛い経験を力に変えてやってこられたのですね。
まさにその通りです。
独学でもクオリティの高い作品が作れるところを見せたいという気持ちですね。
家具は精度が大事です。数ミリずれるだけで全体が曲がってしまってダメになります。
だから僕は、0.3ミリ以内の精度を出す努力をしています。
ーーそのためには、なにが一番重要なのでしょうか?
視野を広く持つということだと思います。視野を狭めてしまうと、見えるものが変わってしまうので。家具だけにこだわらず、なんでも美しいものを実際に見ることです。
例えば、僕の工房は機械が少ない方なんです。
だから「君の工房はこの機械がないからこれは作れない」と言われることがあります。
僕はそうは思いません。視野を広く持って工夫することで機械がなくてもできるのです。
ーー頑張ってこられた中で「認められた瞬間」を感じたのはいつですか?
初めてのクラフトフェアの時ですね。
出展者が100人ほどいた中で、良い評価をいただきました。
感極まって帰りの車で泣きました。
自分のしていることが形になって、初めて認められた瞬間で、やっぱり幸せでしたね。
ーー自分のしたことが認められるのは喜びの瞬間ですね。お伺いして僕も幸せな気持ちになりました。
家具にとらわれない作品製作と木材の本来の姿を表現する独特なデザイン
ーー家具の他にも器などさまざまなモノを作られているのですね。
大小に関係なくいろいろ作ります。大きくても小さくても、そこには一つの世界があります。それを教えられたのは器の世界でした。
確かに大きいものは迫力があります。しかし小さくても内面的なものは変わりません。力のかけ方は一緒なんです。もちろん大きい作品を作る方が大変ですし、作るリスクも高い。
でも大事なのはそこではなく、内面的なことだと僕は思っています。
ーー思想的な部分がとても伝わってきました。
デザイン的な部分でも、荒川さんの特徴を教えていただけますか?
根底にあるのは、有機的なモノのイメージです。僕が読む本は、顕微鏡の世界、花粉や植物、形の法則、フィボナッチ数列など自然が作り出した有機的なモノをイメージするものが多い。それは命の気配やたたずまいが好きだからです。
だから僕の家具は、お客様と実際にお会いしてからのフルオーダーになります。
ーー確かに荒川さんが表現される有機的な作品は、フルオーダーでしか実現が難しいかもしれませんね
完全な丸や四角は自然界には存在しません。僕の作品は、有機的で意味があるもの。そして一つの空間をトータルに考えてお客様と相談して作る「空間デザイン」です。
それと痕跡ですね。
ーー痕跡とは?
使う木材を有機的に表現する作品には、その木がもともと持っていた「痕跡」が現れると思っています。本来の姿、つまり有機的な形でそれを表現することをイメージしています。
製材してまっすぐな木材、真四角になっている木材は本来の姿ではないんです。
ーー作品を見るとそれがとても伝わってきます。
ありがとうございます。「痕跡と命の気配」は家具を作るうえで大事な表現です。
もちろんすべての家具がそうあるべきとは思っていません。北欧系の家具もシンプルでとてもよい家具だと思います。
でも僕は、それだとただ空間にたたずんでいるだけに思えてしまって。
僕のイメージは自然とその空間に調和するもの。「一緒に暮らす」というイメージで愛でて欲しいのです。
荒川さんオススメのrenwoodwarks作品を紹介
ーーありがとうございます。次に家具のオススメを紹介していただけますか?
僕の工房の流行りは箱物家具です。
ーー箱物は表現しにくいイメージがあります。
荒川さんはどう表現されているのですか?
「ここから毎日服を出して生活が始まる」とか考えると、とても楽しいんですよ。
海外の木工家さんは本当にすごい作品を作っていらっしゃるので、デザインソースとしてとても刺激になります。そこからインスピレーションを受けて自分の形にしていきます。
ーーアートを感じるデザインですね。どのようなイメージで作られているのですか?
アートのように見られますが、アートではないんですよ。
この取手は蔦が伸びていくさまをイメージして作っています。
この作品を作るときは二日間くらい悩みましたね。
ーーそのイメージはどのように思いつくものなのでしょうか?
「今までにたくさんのものを見てきたのだから、自分の知識のなかに必ず答えがある」と思って、答えが出るまで考え続けます。
ーーこの作品の特徴を教えていただけますか?
木だけで組んでいる構造体です。
レールの部分だけはどうしても金具になってしまうのですが、基本的には木です。
例えば、木をホゾで飛び出させてクサビを打ち、外れない構造にする「ホゾクサビ締め」という工法を使っています。
ーー細部までこだわりが詰まっているのですね。
詰まっていますね。一人でやるからこその芸当です。会社とは違い、個人で極限までつき詰めてやっていくことができるので。
背面にもこだわっていて、総無垢で「本実(ほんざね)」と呼ばれる加工で作っています。
※本実(ほんざね)加工とは、板の側面に凸凹をつけ、はめ込んでいく加工。
ーーデザイン性も高いので部屋の中心に置いてもかっこいいですね。
自分が誇りを持って作っているものに隙があるのはとても嫌です。もちろん「お客様に喜んでもらえる」ということが大前提。一生ものの家具だと思って作っていますし、そう思って使って欲しいのです。
僕の工房で購入していただいた家具に不具合が起きても、一生ケアをします。
ーー次のオススメ作品を教えていただけますか?
いろいろなものを作っているなかで、オブジェクト照明をご紹介します。
これはだいぶ初期に作ったものです。山からとってきた大島桜という桜の木の皮を使っています。
ーー山からとってきたものなんですか?
はい。南伊豆の実家の山でとりました。実は中学生くらいの頃から狙っていました。当時も腐りかけの桜でしたが10年ほどしてほとんど朽ちていたんです。
中はボロボロでしたが皮自体は非常に丈夫で、しっかり残っていました。
それを持ち帰ってこの作品にしたのです。
ーー正直、想像を超えすぎてびっくりしています。笑
自分の感性を素直に表現できるのはとても素敵なことですね。
ある時、自分の中の「正解」が信じられるようになりました。
人に何か言われても悩むことではないし、「自分の思いは不変である」と自信を持てるようになったのです。それを作品にできるようになりましたし、これからも形にしたいですね。
荒川さんの工房紹介!
ーーありがとうございます。次に工房を紹介していただけますか?
わかりました。まずはこのバンドソーと呼ばれる縦引きができる機械です。このバンドソーがあることでケヤキの家具が作れます。
問屋で売っている家具の材料は基本的に規格が決まっています。でも、ケヤキに関しては大きいものが多いので、自分で製材して使うためにこの機械を使っています。
ーー縦引きできる機械を初めて見ました。本当にたくさんの木材が揃っていますね。
やっぱり木が好きで、たくさん買ってしまうんですよね。
ブラックチェリー、ウォールナット、ケヤキ、オーク、アッシュと一通り揃っていると思います。
次に見せたいものは旋盤です。
ーー旋盤はお皿やカップの職人さんのところで取材させていただいたことがあります。
僕もこの旋盤を使ってお皿やマグカップを作ります。
手を切ったことはないですが、気をつけないと本当に危ないです。
普通、旋盤で回す木材は綺麗な丸。でも僕の作る作品は丸ではなく歪んでいるから変な遠心力がかかってしまうんです。木材が歪んでいるため弾かれてしまって、木材が飛んできて当たってしまったことがあります。2年間、指が曲がらなくなる怪我もしました。
ーー旋盤も独学ですか?
もちろん独学です。
旋盤で使う刃物も自作で、自分で使いやすいように削って作り直しています。柄の部分も自分で持ちやすいように作るんですよ。
ーー訓練校に通う気にはならなかったのですか?
先に工房を持ってしまったこともありますが、漠然とアカデミックな場所が合わない気がしていました。学ばなくてもいいことまで勉強しなければならないので、それも嫌でしたし。訓練校という選択肢はありませんでしたね。
僕が好きなアーティストや木工家の方で、学校を出ている人がいないんですよね。
自分の力で学んで、思惟することが大切だと思っています。
家具職人が漆塗り!?
次はこちらをご案内します。ここは漆部屋になります。
ーー漆塗装までする方はほとんどいらっしゃらないと思うのですが。
家具屋さんでここまでやる方は少ないと思います。漆は匂いや肌荒れなどの問題があるので扱う人は少ないですね。
ーーここにあるものは現在製作中の作品ですか?
これは以前作ったものを改めて作り直しているリメイクです。
コーヒーカップのサンプルになります。
現在製作中のなかでは、アイアンを使う造形作家の方とのコラボ作品があります。
どうしても金額は上がってしまいますが。
ーーとてもいいですね。でも手間などを考えるとどうしても金額は上がりますよね。
その分クオリティはしっかりしていますよ。
この辺の作品は漆を15回は塗っていますね。
ーー15回ですか!?
そうです。それくらい手間をかけないと良いものは作れないんですよ。
これは「生漆」といって樹液そのままです。
この生漆を塗りつけていく筆、ヘラも自分で作りました。
ーー筆、ヘラも荒川さんご自身で作られるんですか!?
全部作ります。
数は少ないですが漆塗りの筆を作る専門の職人さんもいらっしゃいます。
僕は本職の漆塗り職人さんのような技術はないので自分で作ったので十分。
筆に使う毛は若い女性の髪の毛がいいんですよ。漆の伸びが違いますね。なかでも油分が程よく抜けた髪の毛が一番良く、尼さんの髪の毛が良いといわれます。
ーー道具まで自作とは本当にすごいです。ちなみに筆部分の髪の毛はどうしているのですか?
知り合いの女性に綺麗な髪の毛の方がいて、ちょうど切るタイミングのときにいただいてきました。人毛以外にも使う毛はいろいろあり、ウサギの毛を使っている筆もあります。
ーー漆塗りの方法を簡単にお聞きしてもよろしいですか?
はい。まず漆にも種類があり、黒、白、赤、黄、銀ススなどさまざまな色があります。
これらを使って作品を作っていきます。
まずはベースの器に布を貼っていきます。そして「摺り漆(すりうるし)」という、木地に生漆を何回も摺り込み仕上げる手法を使って漆を塗っていきます。
塗っては乾かし、そして磨く。それを何度も繰り返して強くしていき下地の完成です。
ーー下地を作るだけでも手間がかかる作業なんですね。塗る回数や厚みで色味や表情は変わっていくのですか?
もちろん塗る工程や回数で表情が変わってきます。卵の白身を使って表情を作ることもあるんですよ。
ーーどうして卵があるのか気になっていました。これも作品作りに使われるんですね。
これは黒色の漆「黒蝋色漆(くろろいろうるし)」と呼ばれる漆を使っています。
塗ってわざとシワを作って垂らしていくんです。それを「風呂」と呼ばれる場所である程度まで固めます。
固まったところに卵白を塗って風を当てます。卵白はタンパク質なので風を当てることによって収縮してこういう作品になっていくんです。
日本伝統の変わり塗りの一つですね。
ーー漆は木工とは技術が違いますね。塗装後はどのような工程で進むのでしょうか?
漆は普通の塗料とは違い、湿度が70%以上、温度も基本的には20度以上でないと乾きません。空気で乾燥させるのではなく化学反応で硬化するんです。
ーー木工を乾燥させるのとは逆ですね。
漆は湿度がないと乾かないんです。今これが硬化させている段階の作品です。
ここから温度と湿度管理をして乾いて固まるまで1ヶ月はかかります。注意しなければいけないのは湿度が高すぎると色が変わってしまうこと。
ーー繊細な作業が多すぎて驚きばかりです。
作品のデザインやイメージはどのように考えているのですか?
木工と同じで有機物をイメージしています。
それは普段の生活にもあって、子どもと公園に行っても、葉っぱや虫、水たまりやヒビなど、なんでも僕の物作りに反映されているんです。
ーー作品によって異なるとは思いますが、制作期間はどのくらいでしょうか。
おおよそ1ヶ月ですね。納得いかない作品はそこから成形してまた漆を塗ることもあるのでもっと時間がかかる作品もあります。
それに、僕がやっている「変わり塗り」は、漆を盛るなどしてテクスチャを作るので表面だけ乾いてしまって中が乾かないことも。そうならないために、表面に針で穴を開けて中が乾くようにして作っていきます。これは1ヶ月以上かかってしまいますね。
読者の方へ、荒川さんから一言
ありがとうございます。最後にこの記事の読者に一言お願いいたします。ーー
今も、「オーダーメイド家具は贅沢品」という考え方が強いと思います。
確かにそういう部分もありますが、家族が暮らす場所、時間を共有する場所をより良いものにするのがオーダーメイド家具。一生使えるオーダー家具と一生ケアをしてくれる職人。
それらがオーダーメイドの楽しさかなと思います。
僕の工房ではリメイクもやっています。今まで使っていたものを作り替えてまた使っていくことも可能。それこそ一生使っていける家具だと思います。
どんなことでもできる限り対応させていただくので、ぜひ一度ご相談していただけたらと思います。
荒川さんありがとうございました!!
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