職人体験記

江崎さんインタビュー『アーティストから見た、アートの購入、投資の仕方』

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投資目的のアートの購入の仕方はどのような方法がありますか?

先ずアートの買い方は、直接作家さんから買うパターンが一つです。
直接作家さんから購入するためには展示をやってるギャラリーに行って買う方法がスタンダードです。最近だとネットでも購入することが出来ます。アート売買サイトも増えているのでそういうサイトでも買うことが出来ますね。

 

では、次に投資についてお聞きしたいのですが、アーティスト側から見て、アートの投資というのはどういう風に考えていられるのですか?

投資についてですが、僕も作品を創る側として、どういうルールがあるのか?マーケットがどういう仕組みになっているか?どのような買い手がいるのかなどを、多少勉強というかそれを調べなきゃいけないなっていう考えが根底にはあります。

その中で知ってる範囲、もちろん間違っている部分もあるかもしれませんが、お話させてもらいます。
先ずオークションが一般的に考えられます。
オークションもさまざまなオークションがあります。安いところでいったら、ネットオークションという方法ですね。
またはいくつか他にも購入方法の種類があるのですが、オークション会社で買うのも1つです。
有名なオークション会社はサザビーズとクリスティーズですね。アートのオークションでは有名な二大オークションハウスで扱ってる作品も一つ一つが高額です。


 

高額なオークションは一般の人でも利用できるのでしょうか?

オークション会社によると思うのですが会員制になっている所もあるので、誰でも「この作品欲しい」と思った時に買えるかっていうと色々問題になる部分はあると思います。
扱っている物の額が全く違うので、恐らく資産がある程度ないとオークションの利用は難しいかと思います。
 

アーティストが創った作品にはどのような仕組みで値段や価値がついていくんでしょうか?

作品で値段が上がっていくのと作家の価値が上がるっていうのは比例してる部分があると思います。
ギャラリーに所属している場合、作品を販売するならまずギャラリーが値段を設定しています。もちろん作家の意見も反映されています。
所属している状態で値段を上下していくとすれば、ギャラリーがある程度コントロールしていくのが一般的です。
オークションの場合、価格の上がり方はギャラリーで販売しているのとは違います。オークションは競ってる人がいるので、出展した作品を欲しい人が二人以上いる場合、落札価格を競い合って値段が上がります。
その最終落札価格が、そのアーティストの価値になりえる可能性があるというわけです。

 

ギャラリー販売だとある程度の価格にしかならないけど、オークションだと一気に価格が跳ね上がるという事ですか?

その可能性も十分にあります。
さっき話したクリスティーズやサザビーズなどの大きなオークションで出展されるアートになると、思っている以上に値段が変わってきます。
例えば、今まで100万円くらいの値段で売買されていたのが、一気に何千万になるケースもあります。

有名な方だと、村上隆さんが作った立体の作品だと思います。これは最初に所有していた方が同作品を売却し6800万で売買したというのを村上さんの著書で知りました。その後、そういった背景もあり同氏の作品が1億円を突破しています。その当時、日本人の一つの芸術作品では史上最高額の価値がついていると知りました。
大手のオークションに出品されて価値や価格が上がるという事はあるようです。
村上さんには、最初に売られた数百万くらいしか入っていないと思います。でもその作品が何年かしてオークションに出展されて値段が上がっていくと、村上さんの価値も上がって、次に作った作品は以前の最終的にやり取りされた値段の価値くらいになることがあるようです。
作品が最初の価値から何百、何千倍の価値になっていくのが、アート投資としての含みになってくる部分はあるとは思っています。
ただ、ここまで辿り着くには想像以上。いやそれ以上に大変です。


 

値段や作品の価値は最初からつくものではなく、後から上がっていくものなんですね。

そうです。だからアーティストは、作品が最初に売れたとしてもお金にならない場合が多いです。
オークションで競った場合は、最終落札額まで競って、購入出来なかった人がいるじゃないですか。その人はその価値でも欲しいと思ったわけですよね。
そうするとギャラリーや関係者などが、その人に「では同じような作品を作るまたはあるので買いませんか?」というようなアプローチをします。すると、同じくらいの額で買う場合があるようです。
そのお金はアーティストやギャラリー関係の人に分配されます。そこからアーティストは作品の価値としてお金がもらえていくようになります。

 

アーティストは、金額より価値を上げるっていう作業が一番に来るんですね。

そうですね。もちろんより良い作品や真新しい作品、新しい文脈を作るってことが大前提だと思いますけど。最初は、作品をどう売っていくかっていうところから始まりますが、その後は、作品の価値をどう上げていくかが大事になりますよね。

アーティスト本人で価値をあげようとしている人もいますけど、基本はギャラリーなどが間に入って販売していくことや価値の底上げをしてくれていると思います。
大きな会社として考えたら、商品があってそれを売るための広告をやったりだとか、類似商品があっても、自社の商品の方が良いっていうのを、どうやってアピールして高く売るのか、値段を逆に高くしなくても、多く売るかっていう売り方を考えるっていう事をするじゃないですか。
それとほぼ一緒で、アーティスト以外の周りの人達(ギャラリーなど)がその中での役割を担っている場合が多いと思います。

 

アート投資(アートを買う人)が増えているんでしょうか?

肌感覚ではありますが、増えてきてると感じますね。
 

アートを購入する人が増えているという中でも、初めてアート投資をすることは一般的に難しいイメージがあるのですが、どのように投資していくのが良いですか?

投資を含めてアートを購入する場合の一番のポイントは絶対に所有するという事だと思います。
その中で購入する人には大きく分けて三種類の人達がいると思っています。
一つは潤沢な資産を持っていて、自分で流行を作りたい人。それはコレクターになって、「この人面白そうだな」「これ売れるんじゃないかな」っていう新しいものを、つまりゼロをイチに変える事をしたい人がいます。


 

なるほど。投資をしてその人の価値を上げていくということですね。

もちろんベースにアートが好き詳しいっていう事が前提にあると思うんですけど、そういうパターンの投資方法が一つです。
もう一つは、もうすでに売れてるアーティストの作品をお金があるから所有する。その作品を展覧会や大々的にショーアップされて人気や話題性が上がった時に売買っていうパターンですね。

最後はずっと自分が所有するために購入するパターンです。
ざっくり分けるとこの三種類のパターンに分かれるのではないかと思っています。
もちろん、資産があり高額なアート作品ではなく。ただ、アート、アーティストが好きで買ってる人も沢山います。
ただアートをビジネスと考えて、買ってる人も少なからずいるという事です。逆にそういった人がないと、価値を上げたり、価値を作る、新しい作品や作家を発掘するっていうのを出来ないと思いますからね。

 

アーティスト的には、ビジネスとしてアートを取り扱って貰った方が価値が上がるケースが多いということですね。

その方が可能性が広がる部分はあると思います。
アートでお金の話をするとマイナスなイメージがありますが。お金かけた方が、より良いものが作れるっていうのはあると思うんですよ。
例えば製作費が少ないお金で映画を作るより、製作費がある方が色々やれることも増えて良くなる可能性が高くなる。
もちろんそうじゃないという人もいるかもしれませんが、お金という部分でちょっとした差は少なからずあると思うので、作品を作り続ける、大きな作品やスカルプチャーなどを作る際に製作費が必要不可欠だという事です。
ただお金持ちになりたかったらそもそもアーティストとして作品を作ったりしていないと思いますしね。


 

アートに投資してくれる人たちがいるから作品を作り続ける事が出来るということですよね。

そうです。投資目的でも、良いと思い好きで買ってみようと購入された場合でも。
語弊があるかもしれませんが、有っても無くてもいいものと思う方は多いと思うので、ビジネス的な考えを持った人たちがいないと、価値を作っていくことは難しいと思います。
美術館に未来永劫所蔵されるっていうのは、背景にそういう人たちがいないと成り立ちません。
アーティストは絶対死にますけど、作品は残っていく。その作品の価値を分かりやすく作っていくのが、アートで投資をしてくれている方々だと思います。
でもその中で一番良いのは、そのような人たちも「やっぱり自分がアート好きだな、この人の作品好きだな、所有したいな。」という想いがあるところだと思います。

 

もしこれからアート投資を始めようとする方がいたら、オークション以外での売買で、買値よりも売値の方が高くなる可能性はあるということですか?

確実にそうとは言い切れませんが可能性はもちろんあります。基本的に売値は買った時のものからスタートする事が多いですからね。
例えば投資と考えるならば10万で購入したものは、わざわざ3万で売る事は無いと思うので。
 

オークションで購入するとなった場合、多少リスクが伴うのでしょうか?

さっき話した二大オークションのような高額な作品を取り扱うような有名オークションだったらほとんど無いと思いますが、やっぱりネットに溢れてるオークションやアート売買サイトだとリスクはゼロではないですね。
薄利多売をする人や本物かどうかという部分でアーティストの値段や価値が下がる可能性があるので、結構問題視されてる部分もあります。
全員が全員、自分の為にアートを売買してる訳ではなかったりすると思うので。


 

アート投資(購入の)はきっかけがないと購入しにくいように感じましたが、されている方はどういう方が多いと思いますか?

それは個人差があると思います。アートという世界が好きな人もいれば、ビジネス的な感覚でやる人もいるだろうし。後はただ見た目が好きとか作品や作家が好きな人も。
だからさまざま選び方があると思います。
ただ、どの視点であっても何かを買う時にアートをチョイスした時点で、少しはアートに興味を持ち、好きな気持ちがあるんだと思います。
ちょっと部屋に飾りたいとか、この作家・作品を欲しいっていう気持ちが根底にあって、それがない限りは、まずアートを買うことはないと思います。


 

興味がないとたどり着かない世界ではありますよね。その興味を持つ事が大事という事ですね

そうですね。作品の有名、無名って全然関係なくて良いと思うんですよ、自分が出せる額で納得できる作品があれば良いと思います。
単純に「良いな、欲しいな」って思うのであれば、僕は買った方がいいんじゃないかなって思います。
投資とかではなく、そういう買い方でも、アーティスト的には「作品でお金を得ることができた」と思いますし。
自分の作品に価値が付いた、興味を持ってくれたというのは、純粋に嬉しい事ですから。
だから単純に好き嫌い、単純にカッコいいから買うっていう買い方でもいいし「この人アーティスト的に伸びそうだな、今後投資していきたいな、じゃあ集めようかな」っていうビジネス的な視点も全然有りだろうし、色んな買い方でいいなと思います。
 

自分に少しでも興味があったら、実際にギャラリーやオークションで購入してみるのが良いんでしょうね。

そうですね。やってみないと分からないですからね。
特にこの業界は、まだ整備されてない所が多いし知らない人も多い世界ですからね。もちろん僕も含めてまだまだ知らないことはたくさんあります。(笑)
だからまずはアートの世界に入って楽しんでみるしかないかなって思います。
最初の一つの取っ掛かりとして、自分の部屋を装飾するための一つとして購入するのは良いと思いますね。
 

そこで興味が強くなれば、投資についても勉強しやすくなりますね。

日本ではまだまだアートの買い方が知られていない部分があると思うんです。
アートの買い方、投資の仕方を知ってもらえたら、アートが盛り上がってくると思います。そうなってくると日本でもアートがスタンダードになって、アーティストの地位も確立されてくるのかなと思います。
 

確かに日本で知ってる人は少ないように思います。アートの価値について知れば、とりあえず買ってみようという気持ちになりますね。

そうですね。ただ覚えて置いて欲しいのがアートにも流行があって、前まで凄く売れてた人でも、ある程度の期間が経って、売れなくなる人もいるんです。
そうなると所有してた物を仮にオークションに出しても、売れなかったりする場合があるようなんです。
でもある程度アート界で足跡を残した人だと、何年後かにまた再フューチャーされる可能性があります。
 

なるほど!一時的に価値は落ちても、待てば価値が上がる可能性があるという事ですね。

だから価値が下がったとしても大事に持っておくというのも一つの方法です。アートは本当に何が起きるか分からないです。
アートの価値って普通と違って、例えば服はネットオークションに出ているのは基本ユーズドで使用してるもので「使ってる物だから安くて当たり前」っていう概念があるじゃないですか。もちろん例外もあると思うんですけど。
でも、アートってそうじゃない所が強いんですね。
作品だけじゃなくて、価値を作ってきた時代の歴史みたいなものが含まれてるんで、それが価値を下げにくかったりする部分でもあるんですね。
新しいから、未使用だからっていう所ではない部分がアートにはあると思っています。

 

価格の幅、アートの価値の可能性もすごく変動していくっていうことですね。

アートの価値の上げ方があるという事を、海外の方々とかお金を持ってる人達は知っている。
アートは、凄い作品は何億っていう値段で取引されることも多々あって、その副産が何千万円とか億単位になる可能性がある訳です。一回の売買でそれだけの利益ってあまり無いと思うんですね。
 

そういうことになりますね。1%だけ価格上げれるだけでも大きい金額ですね。

1%でも相当変わってきますね。それが株とはちょっと違った形のアートの面白さの一つだと思います。
多分アート業界でバリバリやってる人たちは、ある程度ビジネスは必要だと思ってるから、そこをしっかり考えていると思うんです。そうじゃなかったら、アートは絶対残らないですから。
 

今までアートに投資してきた人たちが、富裕層だからこそ、お金回りがしっかり整備されてるってことですよね。

多分そうだと思いますね。お金をただ単に垂れ流すなんて事はしないと思います。
その中で権力保持という意味合いで「このアートをこれだけのお金を出して買えるんだ」っていう部分もあるかもしれないですね。
そういうある意味、政治的な意味合いがあることも分かってやってるから、作品が大きいお金で取引されて、それが美術館に所蔵される、未来永劫のように飾られるっていうのがあるんじゃないかと思います。
ダイアモンドみたいに元々価値があるのではなく、資産を持ってる権力者達は、価値を作る事が出来る。多分そこに魅力やロマンを感じてる部分はゼロではないと思うんです。
資産を持っていて「この作家面白そうだから育ててみようか。」ってフックアップして、そこで得られる他のお金、簡単にいえばビジネスを感じたら投資すると思うんです。


 

アートの購入、投資のお話を聞いて買う事はそんなに障壁が高くないものなのかなと感じてきました。

そうですね。
ただ部屋に飾るにはちょっと高いかなって思うと思います。
でも、その作家が費やした時間やどうしてこれを作ってるかっていう意図や文脈、苦悩など。作家の想い人生までが詰まっていて、価値があるものですから。。。
それを見る側、買い手側が「この人の作品気に入った、買って良かったな」って思える作品やアーティストに出会えたら、僕はそれで良いと思いますし嬉しいですね。
 

良平さんありがとうございました!

こちらこそ、ありがとうございました。

 

江崎良平
1983年 栃木県生まれ
2008年 アメリカから帰国
2012年 hidari zingaro(中野)を主に展示を開始
以後、数年間試行錯誤しながら製作と作品の方向性を模索し
2019年10月、約5年ぶりと なるStone展を開催し現在に至る。

座右の銘
パウンディング・ザ・ロック(Pounding the Rock)
「救いがないと感じたときには、 私は石切工が岩石を叩くのを見に行く。 おそらく100回叩いても亀裂さえできないだろう。 しかしそれでも100と1回目で真っ二つに割れることもある。 私は知っている。 その最後の一打により岩石は割れたのではなく、 それ以前に叩いたすべてによることを。」

“When nothing seems to help,I go look at a stonecutter hammering away at his rock,perhaps a hundred times without as much as a crack showing in it. Yet at the hundred and first blow it will split in two,and I know it was not that blow that did it,but all that had gone before.”


 
 

Writer Profile


Takuto Suzuki
Inte-code.inc所属のインテリアコーディネーター。1991年静岡県生まれ。北欧インテリアショップの販売職を経て、inte-codeで空間のコーディネートを行う。その経験をもとにインテリアショップ体験記の運営、取材を担当。

 


Yoshiaki Ogiwara
インテリアショップ体験記のカメラマン、編集、取材を担当。
アパレル業界で10年働いた後、現在インテリアの勉強をしながら独立に向けて日々精進中。

 

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