コラム

神戸の家具文化を支える「かぐびと。〜三栄商会」

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株式会社三栄商会代表取締役社長 河合愼治氏

兵庫県神戸市の家具文化の歴史は古く、慶應3年(西暦1868年)の神戸港の開港に伴い家具製造の歴史がスタートしました。
居留地に暮らす外国からの人々の家具修理から始まった洋家具製造。
婚礼家具ブームやバブル期を経て、神戸の家具文化を支える「かぐびと」をご紹介します。

創業、始まり

昭和33年、父である先代が27歳で独立創業しました。
それまでは神戸元町で、店舗の設計施工も広く手がけていたオーダー家具店で修行を積み業界を学んだそうです。

当時は今のように、専業のインテリア店とか、店舗工事店があるわけではなく、別注家具店がそれらに対応していたと聞いています。
かつて新築住宅着工が盛んだった頃は、置き家具だけでなく造り付け家具・建具・階段手摺りなど1軒の家のいろいろな場所で、神戸洋家具の技を生かせる需要があり、多い時には10名ほどの職人さんが忙しく製作をしていたようです。

具体的な活動内容

弊社には「オーダー家具」「内装インテリア」「店舗設計施工」の3つの仕事の柱があります。住宅メーカーが店舗併用住宅を受注した場合の、店舗部分の指定工事店になっていたこともあります。
仕事を通して培ったそれぞれの商材・設計・施工の知識や技術力を生かした提案で、オーダー家具製作はもとより、戸建てやマンションのリフォーム、事務所や店舗の設計施工に力を入れています。
近年はそれらでご縁をいただいたお客様から、エクステリア工事のご依頼をいただくこともあります。

現在に至るまでの過程

先代の頃から、仕事は住宅メーカーやゼネコンに出入りしている工務店の下請けが中心です。
内装インテリア、家具・造作工事を請け負っていましたが、私の代になり時代の変化に危機感を覚え「下請けから元請けにシフトチェンジしていきたい」と考えるようになりました。

「元請けとしてお客様からの信頼も得られるはず」と思い、1級建築士の資格取得に挑戦しました。
建築学歴がまったくない私の場合、建築関連の実務経験が8年ないと、2級建築士の受験資格も得られません。2級資格取得後、さらに5年実務経験を積まないと1級の受験資格が得られないというハードルの高さでした。

しかし、資格を取得できたおかげで、同じご提案をしても説得力が増して、お客様からの信頼を得られ、仕事の幅も広がっています。くじけず頑張ってよかったと思っています。

過去の思い出に残っている案件

今回の取材依頼を受けた時に、すぐにこちらのお店を思い浮かべました。
神戸を代表するステーキレストラン「モーリヤ」の3号店「ロイヤルモーリヤ」です。
弊社は家具のショールームを持っていませんし、オーダー家具はお客様に納品したら手元には残りませんから……

神戸を代表するステーキレストランモーリヤの木製看板。横山木彫所が彫刻を手掛けている

実は3号店の出店計画をオーナー様より伺った時には、施工は同ビル内の2号店を施工された建設会社がすることになっていました。ですから店舗設計のみのご相談を受けました。
当時の流行りのものではなく、「普遍的で色褪せない落ち着いた高級感を」とのご意向でしたので、クラシカルな神戸洋家具テイストしかないなと思いました。

家具・建具・造作部材などは、樹種の選択をし、家具塗装仕上げでないと、高級感のあるクオリティになりません。なので、インテリアの木製品は全て弊社で製作塗装仕上げしたものを、建設会社さんに支給施工してもらうことを条件に手がけさせていただきました。

ちなみにその後の4号店「ダイニングモーリヤ」、5号店「モーリヤ凜」は、設計も施工も弊社にご用命いただきました。

エントランス。神戸牛を扱って130余年のモーリヤの歴史を重厚感で表現

コレクションの帆船を飾るスペースをとのご要望にて(帆船はモーリヤロゴモチーフ)

入口扉には操舵輪を取り入れてとのご要望にて(モーリヤはロシア語で大海)

落ち着きと格調を与える刳物のたて格子

企業・工場・工房のこだわりや強み

強みは「オーダー家具」だけでなく「内装インテリア」「店舗設計施工」それぞれのノウハウを、お客様のご要望に沿うよう組み合わせてトータルにご提案できることでしょうか。
いろいろな角度からの綿密なヒアリングでお客様のご要望をくみ取り、具現化することで、喜びの声を多数いただき、自信を持っている部分ではありますね。

昔からアートや建築も好きなので、打ち合わせの中ではアーティストや作品、時代ごとのインテリアムーブメント、共通して知っているお店やホテルなどのキーワードからお客様の好みや趣向を探ります。自分の引き出しのうち、どれを使うとお客様のご要望に合うかを手探りしながらイメージを共有していくのは、難しいけれどやりがいを感じるところです。
共有イメージが増えて、そこにプラスアルファの提案をすれば、一気に距離も縮まって信頼感も高まり「この人に任せたら大丈夫」と思っていただけますので。

住宅リフォームや店舗設計施工は、オーダー家具製作とは異なり、立地条件や法令等制限も多いため、お客様のご要望をすべて実現するのは困難なこともあります。ですから優先順位を伺ってすり合わせ、できるだけご要望に近づける調整提案力も重要です。

子どものころから先代に聞かされていた、「信用を築き上げるのは何年もかかるけど、失うのは一瞬やで」を肝に銘じ、「責任施工」をモットーとしているので、受注した仕事は全力で取り組んでいます。

店内の腰板。中心部には玉杢の板を使用し表情を変えるこだわり

バックヤード入り口。インテリアに合わせて暖簾も生地選びから

神戸洋家具について

まずは、地元兵庫県民の皆さんに地場産業である洋家具の存在を知ってもらうこと。そして安価な量販家具とはひと味もふた味も違う、孫の代まで使える良さを知ってもらいたいと思います。

そして洋家具発祥の地、兵庫県でこんな素敵な家具を作ったり、それを使った空間づくりをしたりしている歴史と文化を誇りに感じてもらいたいです。他府県民に自慢してもらえるよう、兵庫県家具組合連合会一丸となって洋家具の魅力を発信していきたいですね。

河合氏は兵庫県家具組合連合会副会長、団地協同組合神戸木工センター副理事長を務めている

読者に向けて一言

そうですね、新たな観点で家具やインテリアに目を向けていただければと。
「衣食住」のなかで、一番後回しにされがちな「住」のなかでもでオーダー家具は高価なイメージを持たれがちです。でも、ファッションや高級車などのライフサイクルと比較して、何十年もの間、毎日身近に置いて使えるオーダー家具・インテリアは、日割り計算すると実は高価なものではないんですよね。

興味を持って少しずつでも取り入れていただけたら、日々の生活空間がより心地良いものになると思います。

家具産地の文化を支える企業や工房にフォーカスしたコラム「かぐびと。」
第二回は兵庫県神戸市の三栄商会様をご紹介しました。
次回もお楽しみに。

【かぐびと。プロフィール】
株式会社 三栄商会
オーダー家具・住宅リフォーム・オフィス店舗設計
〒650-0004 兵庫県神戸市中央区中山手通6-3-19
TEL:078-341-1830

 

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