「decci」工房訪問記
今回はdecciを訪問し、藤さんにいろいろと聞いてきました。decciならではの雰囲気をご確認下さい!
工房はいつ頃から始められたのでしょうか?
2012年ですね。2012年に職業訓練校の木工科を卒業して独立しました。
最初は訓練校時代に、クラスメイトと一緒にここをシェアで借りて作品制作をしていました。卒業後、就職などで各々の道を進む中、僕はここに残って独立したのです。
どのような物をメインで作られているのでしょうか?
僕はオーダーメイドとリメイクがメインです。ほかには修理も受け付けています。
工房を始めた当初からオーダーやリメイクが多かったのですか?
最初は、お金もなく仕事も多くなかったので、多肉植物を入れる木鉢や、時計やオブジェなども作りました。
ほかには、父が陶芸をやっているので、器やコップを作ってもらって僕が木の蓋を作ることもありました。
当初はそういった小物を作って売るのがメインでしたね。次第にオーダーやリメイクが増えてきた感じです。
木工がメインだと思いますが、木工以外の物を制作されることもありますか?
基本的には木工がほとんどです。
ただ、訓練校時代のクラスメイトが僕と同時期にアイアン作家として独立したので、木材とアイアンの組み合わせで作ることはあります。
工房を始めた当時のエピソードがありましたら、ぜひお聞かせください。
訓練校時代にこの工房に引っ越してきた際、隣に挨拶に行きました。
桐箪笥屋さんなのですが、お話しをしていたら、その箪笥屋さんの息子さんも同じ訓練校に通っていたのです。クラスメイトだったっていうのは、すごくびっくりしましたね。
すごい偶然ですね。
そうですね。僕もびっくりしました。
ただ、僕が引っ越してきた時には息子さんは学校を辞めてしまっていたので直接のつながりはないんです。でも、そのご縁で修理の仕方を教えてもらったり仕事を回してもらったりと本当にお世話になっています。差し入れもくださったり、日頃から仕事だけでなくいつも気にかけてもらっていて、感謝しています。
ありがとうございます!原点というか工房のスタートのお話が聞けてよかったです!
次に藤さんの作品に対するこだわりや信念を教えていただけませんか?
基本的には木の素材感を活かしたシンプルなものを作っています。
リメイクに関しては、だいたいが塗装してある家具ですので、その着色をすべてはがして、木材のままの色で組みなおすことが多いです。
着色をすべてはがすのですか?なぜですか?
僕は木材そのままの色がいいと思っているからです。
「安い材料だから高級感が出るように着色しよう」という考えは、個人的には必要ないと思っています。どんな材料を使っていても木材にはちゃんと表情があるので、それを活かしたいのです。
木がお好きなんですね。その気持ちがすごく伝わってきます。
すみません……実は、木は特別に好きというわけでもないです。
え?そうなんですか?
木が好きという以前に、モノ作りが好きなんですよ。
木工の仕事をしていますので、もちろん木についての興味はあるし、勉強もしたいと思っています。でも木は、あくまでモノを作るための材料ですね。
こういう考えなので、すべてを木で作るというこだわりはなく、さまざまな素材を合わせることで木の良さを活かすのは、全然「アリ」だと思っています。
いろいろな素材がある中で、どうして木材を選ばれたのですか?
一番身近だということと、昔から日曜大工的な工作が好きなんです。
それに職人自体が好きなんです。職人仕事は世の中で一番かっこいい仕事だと思っていて、職人に対する憧れがとてもありました。
それで木工職人の道を進まれたのですね。
ただ、木工職人になったのは偶然でもあります。木工を始める前は映像を作っていました。でも、身体を壊して少し休む期間をとることに。その時に職業訓練校で木工のクラスがあると知りました。受付の締め切りがそれを知った当日で、急いで申し込んだら受かることができ、学校に通い始めたという経緯です。
体調を崩されたのも、締め切り当日だったのも、運命的ですね!
今から考えるとそうかもしれません。
仮に締め切りが1ヶ月先だったら、考える時間ができて逆に前に進めなかったかもしれません。
いいお話をありがとうございます!
ほかのこだわりもお伺いしていいですか?
そうですね。僕は基本的に、お客さまに自分から形を提案することが多いです。
意外と、細かく希望を持っているお客さまは少ないのです。
ざっくりとしたイメージを持って来られる方が多いので、そのイメージを元に僕の意見をお話しながら図面にしていきます。
藤さんは図面まで起こされるんですか?
はい。僕は図面を描いてお見積りと一緒にお客さまにお渡ししてご検討いただいています。
図面があるとお客さまもわかりやすく、安心されますよね。
お客さまが想像しやすいようにという面と、実際に作る時に図面があったほうが間違いが少ないという面があります。
図面ではわかりづらい全体の雰囲気を見るために、簡単にCGを作って確認していただく場合もあります。
CGまで作るのですか?
昔、映像制作をしていた時にCGも作っていましたので、それほど難しいことではありません。
本当にすごいですね。ありがとうございます。
次にオススメの作品を教えていただけますか?
この座卓のリメイクです。
新しくイチから家具を作るのも楽しいのですが、リメイクはお客さまがずっと使い続けたものを今の生活にあう形に直して、再度使ってもらえる素敵さがあります。
お客さまの生活の中で、リメイクしたものが生かされるのはとても嬉しいですね。
実際に工房に来られてリメイクを依頼されるのでしょうか?
まずはメールでのお問い合わせが多いです。必要があればお会いして打ち合わせをします。
このお客さまは以前に仏壇のリメイクをされました。その時のリメイクした仏壇がこれです。
座卓は、「また作って欲しい」とお話をもらった感じですね。
座卓の元の写真を見せていただけますか?
元の座卓はこれです。
接着剤が劣化して脚がぐらつき、天板も変形して隙間が大きくなり、このまま使用するのは難しい状態でした。
デザインでこだわった部分はありますか?
私の部屋のダイニングで使っている元座卓のテーブルがあるのすが、「同じイメージで作ってほしい」というご希望でした。
こちらがダイニングで使っている座卓です。
基本的な部分は一緒で、お客さまのご希望で角は丸くしています。
ほかにこだわりの部分はありますか?
この座卓は構造上、ここに溝があるのが普通です。
真ん中の一枚板が伸縮して動きますが、溝があれば伸縮しても無理がかからないからです。そのため、溝をなくしてしまうと木の伸縮で割れてしまうことがあります。
ただ、ダイニングテーブルとして使う場合、溝があると汚れが溜まりがちに。
ですから、溝をなくしたいというお客さまは結構多いです。
それで今回は、木固め剤というのを使っています。
木固め剤とはなんですか?それを塗ることで木にどのような影響が?
木固め剤は木材の伸縮を抑える塗料です。
それを塗ることで、湿度による木の伸縮を抑えることができます。
よく木の食器などにも使われていますよ。
なるほど。それを家具にも応用されたのですね!この脚もこだわりがありますか?
裏を見てほしいです。吸い付き桟(すいつきざん)という板の反りを防ぐ加工です。
この上に脚を重ねて固定する構造ですが、脚が結構内側に入っています。
ここは、お客さまの「誕生日席にも座りたい」というご要望を受けて内側に入れる構造にしました。
確かに。これなら座る人数も増えますね。
そうですね。リメイクには制約がありますが、その範囲内で納得のいく形をお客さまと相談しながら探す感じですね。
ただ、すべてをリメイクするのではなく、テーブルなら天板だけを使って、ほかはイチから作ると、比較的自由に作ることはできます。
ありがとうございます。次に工房の中を見せていただけますか?
わかりました。
まず最初は、この自動かんな盤という木材を平らにして基準をだす機械です。
これはよくみなさん使われていますね。
これが無いと始まりませんね。
次にここが作業台になります。
それで道具はこちらにまとめてます。
これは木材を切るテーブルソーです。
こうやって機材を見るチャンスはないので、とても楽しいです。
なかなか見ることはないですからね。
次に、これは木工旋盤といい、木工食器の職人がよく使います。
椅子の脚や小皿など、小物を作るのに使っています。
こんなにシンプルな機材だけで、いろいろできるのですね。
これで最低限です。あとは手持ちの機材でやるしかないので、そこは工夫次第です。
職人さんの腕があるからこそ、作品に味が生まれるのですね。
ありがとうございます。そういうことも関係しているかもしれませんね。
ありがとうございます。最後にコラムの読者に一言よろしいでしょうか?
最近は、家具も使い捨てみたいな物もたくさんありますよね。僕としては、同じものを使い続けることの素敵さにも目を向けてほしいです。
ただ、そのままの状態で使い続けるのは難しいこともあると思います。そんなときは、修理やリメイクで形を変えて、新しい気持ちで楽しんでみるのはどうでしょう。
困ったことがあれば、僕みたいな職人を頼ってほしいなと思いますね。
藤さんありがとうございました!
参考価格
座卓リメイク ¥200,000〜¥300,000
仏壇リメイク ¥200,000〜¥400,000
decci
藤 大輔 (Daisuke Tou)
〒145-0063 東京都大田区南千束1-13-3
E-mail / daisuke.tou@gmail.com
Takuto Suzuki
Inte-code.inc所属のインテリアコーディネーター。1991年静岡県生まれ。北欧インテリアショップの販売職を経て、inte-codeで空間のコーディネートを行う。その経験をもとにインテリアショップ体験記の運営、取材を担当。
Yoshiaki Ogiwara
インテリアショップ体験記のカメラマン、編集、取材を担当。
アパレル業界で10年働いた後、現在インテリアの勉強をしながら独立に向けて日々精進中。