「KOKKOK」工房訪問記
今回はKOKKOKを訪問し、田中さんにいろいろと聞いてきました!注目は二子玉川『ライズ』に置かれたテーブルとチェア!是非ご覧ください!
工房を始められたきっかけ、経緯を教えていただけますか?
2016年から制作を始めて、この工房を借りて2年になります。
大学は建築学科を専攻で、家具を作るよりデザインをしようと思っていました。
大学在学中のアルバイトで職人さんの仕事に触れる機会があり、職人さんの技術次第で同じ図面でも完成度が違うことを目の当たりにしました。
そこで、家具なら設計から制作まで自分でできるのではと思い始めたのです。
もともと自分でやりたいという気持ちがあったのも大きいですね。
独立する前も木工の仕事をされていたのですか?
そうですね。制作の最初から最後まで担当者が作らせてもらえる職場環境でした。
働く職場によっては、決まった部品だけを作り続ける流れ作業に近い仕事になってしまうこともあるのですが、僕の場合は本当にいろいろと経験させてもらえて幸運でした。
そこでの経験はとても大きく、今に活かされていると思います。
どのような家具を制作されることが多いですか?
椅子やテーブルなどが多いです。
ほかに多いのは、建築家の方と組んで造作で作ることです。
保育園のベンチも作りましたよ。今はそのようなオーダー家具や造作が多いです。
設計:パーシモンヒルズアーキテクツ
施工:furniture studio KOKKOK
写真:長谷川健太
保育園のベンチも!?意外ですね。
田中さんがすべてデザインされたのですか?
これは建築家のデザインを形にしました。もともと建築学科出身なので建築関係のつながりでよくお仕事をいただきます。
もちろん自分でデザインから制作までするものもあります。
建築家の方とのお仕事ですと木工以外の依頼もありそうですね。
木工以外でも作りたいと思うことはありますか?
ありますよ。
実は最初の仕事は木工ではなくカーボンロッドを使った展示什器でした。
カーボンロッドですか?
それも建築関係のつながりで、カーボンロッドを使って造作をした事例がない中でお話をもらったんです。
僕自身も作ったことがないし、作れる場所もありませんでした。でも、場所を用意してくれるというので、「誰もしたことがないなら、僕がやろう」と。
それはすごいですね。
木工とは勝手が違うと思いますが、モノづくりはノウハウがあれば応用できるということですか?
問題なく応用できると思います。
もちろん専門的な部分はわからないこともありますが、大まかな組み立てや綺麗に収める方法はなんとなく想像できます。
木工に限らず、土台はある程度決まっているので、それがしっかり制作できればできると思います。
普段の制作のお話に戻りますが、座面の藤張りもご自身でされているのですか?
ホームページに掲載しているのは藤ではなくペーパーコードです。
ペーパーコードも自分で巻きますよ。独立する前に働いていた職場のときからずっとやっています。
以前の職場での経験は、本当に今の自分にとてもプラスになっています。
作品、デザイン、材料などで特にこだわっている部分を教えていただけますか?
「お客さまからのご要望があれば」という前提で、オーダー家具にどれだけエッジを持たせられるかを考えています。
一般に流通する商品は、多くの人が気に入るためにクリアすべきことがたくさんあると思うんです。
でも、オーダー品は「このお客さまとだから作れるデザイン」があります。一般商品ではできないデザインを積極的に取り込んでみることは、とても意識していますね。
強度の問題で、どうしてもできない形もありますが。
「それでも作ってほしい」というお客さまもいらっしゃるので、そこはしっかりヒアリングを重ねて、納得のいく形で採用していきます。
田中さんのフレキシブルさや新しいことへのチャレンジ精神が形として現れるのですね。だからこそ、デザインオーダーに寄り添いつつエッジを効かせることもできるのですね。
僕自身もそう思ってやっています。いろいろなしがらみで作品を制作すること自体が難しくなっては独立している意味がないので、柔軟に物事を考えて、それを作品に出していければと思っています。
建築家の方など一緒に仕事をしている人たちからの影響も大きく、それで柔軟に考えることができているのかもしれません。
ありがとうございます。
次に田中さんのオススメや思い入れのある作品を教えていただけますか?
二子玉川の『ライズ』さんからの依頼で作った椅子とテーブルです。
木製アームチェアなのですが、スタッキングできるようになっています。
木製アームチェアでスタッキングができるのは珍しいですね。
そうなんです。屋外用なので片付けやすさも考えてスタッキングの設計にしています。
急な雨やすぐに片付けなければならない状況もあるので、スタッキング機能は必須でした。
こだわっている部分教えていただけますか?
椅子もテーブルも低めに設計している点です。
ライズさんはファミリー層をターゲットにしているショッピングモール。ですから親子で一緒に座れる椅子をイメージしています。
背が高い人は、高い椅子でも低い椅子でも、どちらに座っても違和感が少ないのですが、背の低い人が高い椅子に座るのはとても違和感があります。
そこで、ファミリー層向けに目線を落とすような設計にしました。
ほかにも椅子とテーブルに合わせて1.5人掛けのベンチも制作しています。
このベンチ、実はわざと大人2人ではギリギリ座れないサイズなのです。親子や子ども2人で座るのに心地よいサイズ感で、ファミリー層を意識した設計になっています。
この椅子のデザインは特徴的ですね!
紐を張ってあるようなデザインにした理由を教えてください!
屋外で使うという前提があったので、ある程度の風雨は問題ないように考えました。
晴れた日限定で使うというオーダーでしたが、多少濡れることはあるので、その辺を考慮しました。
張ってあるのはアウトドア用のロープで、テントやパラシュートに使われるものです。ペーパーコードですとこの密度の張り方では絶対に切れてしまいます。でも、このロープならまったく問題ありません。
ロープの色もさまざまにして、カラフルで綺麗に仕上がっています。
約80kgの僕が座っても全然大丈夫ですね!
スタッキングするためには、どのような構造になっているのですか?
アームの肘の部分に少しだけアールをつけています。
ほんの少し、3mm程度のことです。でもそれで隙間に脚が入るようになり、スタッキングできる仕組みになっています。
本当にすごい。
座って実感しましたが、手を置いた時のアームのあたりがとてもいいですね。
アームは座った時によく触る部分なので、作る工程で最も確認を大事にしながら作業する部分です。
ありがとうございます。
こちらのペーパーコードの椅子も素敵ですね。
僕もすごく好きなんです。
こちらの椅子は兄が新築で家を建てるのに合わせてデザインしました。
少しだけ形だけ変えて、自分用のものも作って事務所で使っています。
無垢材はメンテナンスしながら使えることや経年変化を楽しめる点がメリットだと思うんです。
ペーパーコード部分を張り替えるだけでずっと使い続けられるので、使えば使うほど違う表情出てきて楽しめると思います。
ペーパーコードの椅子は、使い続けるとくたっとしてきて、その感じも好きですね。
ありがとうございます。
次に工房の機械をご紹介をしていただけますか?
ひとつで全ての工程ができる機械はないので、用途に応じた機械がいろいろあります。
まずは角材を作る工程の機械をご紹介しますね。
木材には基本的に反りや捻れがあります。これは、それらを削り平面だしをする機械です。
木材を通す下の部分に刃物がついていて、ここにまっすぐに通すと平面になります。
逆に上側を均一に削ってくれる、上に刃が付いている機械もあります。
両面が綺麗になった木材を、機械のはじに押し当てて幅を決め、刃の部分に通すと角材ができあがります。
角材を作るだけでもこんなに工程が必要なんですね。
そうですね。ひとつの機械だけで加工していくことはありません。
最初はある程度粗めに切らないと機械に通すのが大変なので、粗めから順に加工していく流れです。角材にした木材は、ここで欲しい長さに揃えてカットしていきます。
なるほど。素人目には同じような機械に見えてしまいます。
確かにパッと見た感じは同じような機械に見えますよね。
この機械はテーブルも動くようになっています。テーブルが動くことでカットする幅を調節できます。刃は「横引き用」を使っています。
木には繊維方向があるので、「横引き用」とは繊維を垂直にカットする刃のことです。
カットする方向で刃物の形が変わり、繊維を平行に切る「縦引き用」の刃もあります。
次は穴を開ける工程の機械です。
このようなテーブル脚に穴をあける時の説明をしますね。
こちらを見てください。ホゾ穴があいていて、ホゾが刺さるようになっています。
この四角の穴はこの機械で作ります。テーブルの高さを変えて深さなどを調整し、
四角穴を作る専用のドリルを使ってホゾ穴を作っていきます。
ドリル自体は丸なので、四角の隅は結構荒く削ります。
それからこちらの機械で、ホゾ穴周りの溝を彫っていきます。
この「周りの溝」は、どういう理由から作るものですか?
ホゾは見ての通り四角ですが、丸脚に対してこのまま組み立てると隙間ができてしまいます。この隙間部分を計算して彫ると、隙間なく組み立てることができて見た目も綺麗になります。
角材をこの丸脚のように加工するのは、どのような加工ですか?
この丸棒を制作するには、旋盤という機械に固定します。
モーターが回転し、刃物をあてて削っていくのです。
削る作業は全て手動ですか?
自動でできる機械もありますが、僕は手で刃物をあてて削っていきます。
電動ろくろのようなイメージでしょうか?
そうですね。まさにろくろをイメージしてもらえればわかりやすいと思います。
本当にろくろとしての使い方もできますしね。
例えば椅子を制作する際には同じ形の脚が4本必要ですが、全て同じ形にするのはとても大変ですよね?
同じ形にするのは大変ですね。
始めは感覚で削りますが、最後は輪郭の型を作り、それでズレを確認しながら削ります。
四角の脚よりも丸脚は時間がかかってしまいます。
椅子一脚を作るのも、とても時間がかかるんですね。
木材を曲げることもされますか?
制作に時間はかかりますね。
今のところ、僕は曲げはしていません。
椅子の背もたれなどのカーブ部分は削り出しをしています。
ありがとうございます。
普段は聞くことができないお話をたくさん伺えて、とても楽しかったです。
将来の展望を教えていだけますか?
将来は自社で設計事務所を構えたいと思っています。
現在、建築家の方と一緒にお仕事をする際は、基本的にはデザインをもらってから仕事が始まります。もちろん僕がデザインをすることもありますが。
空間からデザインできる建築関係のお仕事は自由度が高く、とても面白い案件が多いのでデザインするたびにワクワクします。
もっと自分がデザインしたものを形にするためにも、設計事務所を構える必要があると思うようになりました。
最後にコラムの読者に一言よろしいでしょうか?
今後は家具のリペアも積極的にやっていこうと思っています。
家具は決して安い買い物ではありません。
でも日本には家具をリペアしてずっと使い続ける文化が根付いていないと感じています。
ですから自分からリペア文化を発信し、リペアの仕事をしていけたらと思っています。
リペアすることで、長く家具を愛用してもらえたら僕もとても嬉しいです。
そういう概念を知ってほしいなと思っています。
田中さんありがとうございました!
今回、田中さんがデザイナーさんとコラボレーションして制作された
『CONSENTABLE/mok』
特設ページがございますので、ぜひそちらもチェックしてみてください!!
brand:CONSENTABLE/name:mok
デザイン : 梶谷拓生(Takusei Kajitani)
コラボレーション : モクタンカン
furniture studio KOKKOK
〒143−0014
東京都大田区大森中2−7−3 2F
田中良典
tel : 03-6404-6901 fax : 03-6404-6902
mail : tanaka@fs-kokkok.com
Takuto Suzuki
Inte-code.inc所属のインテリアコーディネーター。1991年静岡県生まれ。北欧インテリアショップの販売職を経て、inte-codeで空間のコーディネートを行う。その経験をもとにインテリアショップ体験記の運営、取材を担当。
Yoshiaki Ogiwara
インテリアショップ体験記のカメラマン、編集、取材を担当。
アパレル業界で10年働いた後、現在インテリアの勉強をしながら独立に向けて日々精進中。