neighbor.inc代表小林さんと豊田さんにお話を伺いました!
インテリアデザイン会社としてスタートしたneighbor.inc。
のちに照明ブランド「ON」を立ちあげた際の詳しい話をお聞きしました!
会社設立から「ON」の立ち上げとこだわり
ーー会社の成り立ちを教えていただけますか?
2016年に務めていた会社を辞めてneighbor.incを立ち上げました。
もともとインテリアデザインの仕事をしていて、その当時は基本的には設計業務ばかりしていましたが、「インテリアデザイン以外のことも色々やってみたい」と、会社を立ち上げました。
ーーインテリアの設計からスタートされて、その後独立されているんですね。
会社をつくって最初の一年はインテリアデザインをやりながら「これから何をしていくか」を色々考えていました。
そんな中、ある仕事で隣にいる豊田と知り合いました。彼はもともと、コントラクトで家具の卸や特注照明を扱う仕事をしていて、一緒にやれたら面白いなと思い、2017年にneighborに誘って一緒に仕事をすることになりました。
ーー豊田さんと出会い、新しいことを始められたのですか?
そうですね。そこで「ON(オン)」という照明ブランドを立ち上げました。
ブランドを作るにあたり、彼の繋がりで工場や職人さんの作るものを間近で見ることができて「これなら自分達のブランドを作り、職人さん達と一緒にものづくりができるんじゃないか」と思ったのが立ち上げ理由のひとつです。ほとんど勢いですね。
デザインの仕事ってクライアントがいて、クライアントの要望に対してデザインをするので、自分達で自主的に提案できる活動は魅力的だと思いました。
ーーブランドを立ち上げる時に照明ブランドを選ばれた理由はあるのでしょうか?
彼が特注照明が得意だったことと、自分がお店を設計する際、照明の選定に結構迷うことが多かったので、シンプルで使いやすいものが欲しいと思っていました。
ーー既製のものは限られていますよね。
それで、いろいろなプロダクトを検討した中で、まずは照明のブランドを始めました。
ーー豊田さんが特注照明などを担当されているのですか?
彼には工場の情報や製作プロセス、予算管理などを担当してもらっています。
会社がデザイン会社なので、デザイン自体はデザイナーたちでやっています。
ーースタッフの方みなさんでデザインができるってすごいチームですね。どんなメンバーが働かれているのですか?
基本的には、皆、インテリア系のデザイナーです。
飲食店が強かったり、ホテルが強かったり、と、人により得意なジャンルがあります。だからそれぞれが意見を出してデザインを作っていきます。
ーー皆さんでデザインされているなかで、こだわりや特徴を教えていただけますか?
第一に「職人の手作業によって物に宿る温度感」ですね。ブランドコンセプトにもなっています。
手作業で作られるプロダクトの温かみを消さないために、極力シンプルにデザインしていることが多いです。
僕たちは「素材感」を常に考えていて、そこには永続的な価値があると捉えています。
形は流行の影響を受けて廃れる可能性もあります。形よりも素材に重きを置いて考えると、より永続的なものになるになるのではないかと。
だからデザインも、進めていく途中で要素を削ぎ落とす工程を踏みます。
ーーデザインを足すよりも減らすということでしょうか?
そうですね。「この要素がない方がシンプル」、「この部材はあっても意味がないのでは?」などと考えていると、自然と素材感が見えるところに着地していけます。
ーーシンプルだからこそ使いやすく、素材にもこだわりがあるって本当に素敵ですね。皆さんでデザインされているからこそ行き着くデザインなのかもしれませんね。
デザイン会社なので、工程をしっかり踏んで、何度も見直さないと良いものにならないと思っているんです。
シンプルだけど、しっかりこだわりを持って作られた形というものを商品として出したいです。
ーーデザインを足すよりも減らすということでしょうか?
日本の店舗に合う照明、照明の選び方
ーー店舗デザインをされ、照明ブランドも立ち上げられている中でお聞きします。日本の店舗に合う照明とは、どういうものだと思いますか?
それは一概には言えないですね。
お店もお店ごとにコンセプトがあり、様々なデザイナーさんが空間を作っているので、必ず「コレ」という照明はないと思っています。
ただ、正解は無いと思う中で、商品を考えるにあたりONのコンセプトでもある「ちょっとした緊張感」は大事な要素だと思っていて、空間に馴染みながらも少し緊張感があるものの方が佇まいが美しく感じると思ってます。
当社の照明は特にシンプルで小ぶりなものが多いので、多灯吊りをしてもらうこともありますし、その空間でどういう役割を持つのかが大事だと思ってます。
ーー店舗、空間を作る時は、どういうこだわりを持って作っているのでしょうか?
「このお店ってこういう場所だよ」というストーリーやコンセプトを大事に考えています。
軸がしっかりしていないと、意匠の好き嫌いの話になり、良いものが作れません。
「共通認識」という軸があればクライアントと同じゴールを目指せるので、最適な空間を作れると思っています。
ーーこだわりを持ち、その実現のためにしっかり軸を持つのは大切なことですね。
次にオススメの照明の選び方を教えていただけますか?
例えば、作業の時の照明と寝る前にくつろぐ時の照明は、求められる光の色も質も全然違いますよね?
僕らが空間デザインをしていても、その店舗に合わなければ自社の照明を入れないこともあります。それだけシチュエーションや使い方によって選ぶ照明は変わってきます。
店舗ですと、照明は装飾的な意味合いが強い場合もあります。
逆に住宅なら、生活に必要な照度も求められてきます。
だからシチュエーションに合うことが大切で、どういう使い方をしたいかを明確にもてば、照明は自然と選びやすくなると思います。
ーー照明は単に光を供給するものというイメージでした。さまざまな面白い使い方ができそうですね。
店舗の設計をする中で照明の重要度はどのくらいだと感じますか?
店舗全体の光関係という意味では、とても重要だと思います。
光の環境により、お店がどういう場所になるか、一気に変わります。
例えば、落ち着いてご飯を食べる空間なのに明るい蛍光灯の光だと落ち着きませんよね。
そういう意味で、お店の照明を作る時の環境作りは結構気を遣う作業です。専門の方にも見てもらいますし。
照明の考え方ひとつで空間が良くも悪くもなります。その中でペンダントなどの意匠的な照明で空間にワンポイントを足していく、プラスαのイメージですね。
光と空間をどう作るかは、人の感情を変えられる要素だと思います。
ーー光の色味や強さ、光源の場所が変われば人の感情も変わると。面白い考え方ですね。考えれば考えるほど奥が深いですね。
昔読んだ本で、内容は「風景の中の影に美を見出している」ことや「蝋燭だけの暗い空間の中ならではの美しさがある」というような本で、光ではなくそこから生まれる影を意識するのが良いなと思ってます。
ーーその考え方はすごく面白いですね。
ブランドをスタートして照明デザインを考え始めた時には、ライン状の照明や間接照明など、いろいろな照明を検討していましたが、そういう考えや良さがあることから、僕らは電球の点光源の商品に絞って進めました。
蛍光灯の拡散する光ではなく、蝋燭の光のような点の光じゃないと影が生まれないので。
暗がりがあることがすごく自然で、居心地がいいことだと思っています。
光の持つ良し悪しや感情を揺さぶる点をより深く考えられて面白いと思います。
ーー影が大事とは盲点でした。僕の中でも考え方が変わりました。
【照明の未来と会社の展望】
ーー照明はさまざまな視点で楽しめますね。今後、照明業界の未来はどうなっていくと思いますか?
今後の業界の話は、特注照明の仕事をして業界に詳しい豊田から話を聞いて欲しいです。
ーー豊田さんはどのようにお考えでしょうか?
以前に、接触型の充電システム「Qi」(チー)を組み込んだデスクランプを作ったことがあります。
その時に感じたことは、技術がどんどん進化して、完全ワイヤレスのペンダント照明やデスクランプが作られたとしたら、インテリアデザインの自由度が格段に進化するのではないかということです。
今以上に表現できて、面白い空間ができるのではないかと思いますね。
ーー確かに、完全ワイヤレスなら今までのインテリアデザインとは全く違う方向性でデザインができそうで、面白いです。
現在、「ON」の次のラインでスタンドライトを出そうと考えています。サンプルを製作中ですがやはりコードが邪魔です。
テーブルなどにおいたら、絶対にコードを引っ張らないといけませんから。
ーー照明にコードはついているものなので、邪魔だと考えたことがありませんでした。
今はまだ、それが普通で当たり前ですよね。けれど、コードに対する考え方が今後変わってくれば、スタンドライトの立ち姿がより美しくなったり、ペンダント照明の吊る場所を選ばずにすんだり、自由になりますね。
実現することができたら非常に魅力的だなと思います。
ーー本当に魅力的なお話ですね。ありがとうございます。
次は会社の今後の展望を教えていただけますか?
基本はインテリアデザインの会社です。これは今後も変わらないと思います。ただそのなかでグラフィックデザインやプロダクトデザインなどの仕事も受けていて、デザインの領域を広げていきたいとは思ってます。
色々やっている方が発想がどんどん変化して面白いと思っているので。
照明の話で言うと、先ほどもお話ししたスタンドライトやブラケットライトを作ろうと考えています。
そこがひとつめの目標達成ポイントだと思っています。
ーー目標達成ポイントとは?
「ON」のブランドネームは、スイッチの「オン」だけではなく、前置詞の「ON」でもあります。床・壁・天井に接しているという意味があるので、「空間全てにプロダクトを提案する」という思いが込められています。今は吊るす照明がメインになっていて、「空間全て」という意味から離れてしまっています。そういう意味では、スタンドライト、ブラケットライトを作れることは、ブランドの名前に即した目標なんです。
最初から作ろうと考えていたものの、なかなか作ることができず、やっと今作り出せました。
ーー今度の新商品がとても楽しみです。ありがとうございます。
取材を受けていただいて読者の方に一言
ーー最後に、コラムを読んでくださる読者に一言よろしいでしょうか?
皆さんにもっと照明を気軽に楽しんで欲しいです。
当たり前のように蛍光灯がついていませんか?明るいし掃除も楽だし不自由がないと思うんです。でも、照明を変えるだけで居心地や生活の質は変わります。
コロナウィルスの影響で在宅時間が増えている方が多いと思いますが、これを機に照明に少しでも興味を持ってもらえると嬉しいです。
とても奥深く面白い照明の世界を体験し、感じてみてください。
小林さん、豊田さん、ありがとうございました!