今なお西洋文化が息づく街横浜に店を構える「ダニエル」元町本店訪問記
「ダニエル」は1941年の創業以来、職人技が生み出すクラシック家具の製作販売をはじめ、イギリス老舗家具メーカー「アーコール」の総代理店を務めるなど、横浜クラシック家具の文化を牽引している老舗家具ブランドです。
また家具の製作販売のほかに修理や人材育成など幅広く事業を展開し、次世代に向けた技術の継承にも力を注いでいます。
今回はそんな横浜クラシック家具の文化を牽引し継承し続ける「ダニエル」について代表の咲寿さんにお話を伺いました。
横浜クラシック家具を守り続ける「ダニエル」とは
ーー「ダニエル」とはどのようなブランドですか?
家具メーカーとして、ショップ、ショールームの他にモノづくりをする会社です。神奈川県下(横浜市・伊勢原市)に工場があり、椅子張り、ソファや椅子のフレームから箱もの家具、塗装まで一貫している製造部門と、「家具の病院」という修理をする部門、その他に人材育成と学びの場として、「家具の学校」も行っています。
ーー「ダニエル」というブランドが生まれた経緯を教えてください。
明治維新の開国後、もともと横浜に移り住んできた外国人の洋家具を見様見真似で作ったり、修復していくことで、私たち日本人は洋家具を学んで制作できるようになっていったのですが、関東大震災や戦災の影響で、洋家具というものが一時衰退してしまいました。
そこで私の祖父の代が、技術を持つ職人を集めて「協業組合ヨコハマクラシック家具」という組合組織を作ったのが始まりです。
ーーなるほど、最初に協業組合を作ったのですね。
明治維新後に、英国からお雇い外国人として来たジョサイア・コンドル氏と縁戚関係にあった祖父や父が、洋家具文化と横浜の家具文化を残そうという事で「協業組合ヨコハマクラシック家具」を作りました。丁稚奉公を募って若い人を育てていく環境を作りながら、今度は彼らが作ったものをブランドとして世の中に発表していこうということで「ダニエル」というブランドが生まれたのです。
ーー元々は色々な家具屋があって、それらの若手を集めてブランディングされたのが今の「ダニエル」ということですね。
「家具の病院」が提唱する直すという考え方
ーーモノづくりと修理というのは、そのやり方も違えば考え方も違うと思うのですが、なぜ家具の病院を始められたのですか?
横浜における家具製作は、外国から日本に持ち込まれた家具を修理することから始まっていますので、ダニエルではもともとアフターケアをしながら永く使ってもらうことを前提に洋家具を製作しています。
「家具の病院」というセクションとしては1998年に立ち上げましたが、家具の修理自体は創業以来というか、その前から横浜の文化として当たり前にありました。
そのためモノづくりをする時、壊れても直せるように、無垢であることや木組みにもこだわり、修理をすれば新品同様に戻せて、次の世代へ受け継ぐことができるように、ということは念頭に置いています。家具を作れる職人だからこそできる修理というものがあると思っています。
ーー修理する方法にも違いがあるということですね。一般的に家具の修理は壊れた箇所を金物等で補強などすることなのかと思っているのですが、そのような修理との違いは何でしょうか?
そうですね。それは確かに修理は修理ですが100%ではないと思っています。
例えばグラつきを止める方法は幾つかあっても、ちゃんと木組みを理解していない人は一旦分解したあと組み直すことはできないですよね。でも分解せずには本来の修理とは言えないと私たちは考えています。家具作りのイロハを理解した上でできる修理が大切だと考えています。
ーー作り手としてプロの方が修理をしているので、壊れる前の状態より良くして直すことが可能になっているのですね。
国家資格で一級技能士というものが各部門であるのですが、私たちダニエルでは基本的にその技能士が修理も行うようにしています。しっかりと資格を持っている職人が見る、修繕するということが基本だと思っています。家具を作るメーカーだからこその考え方かもしれないですが、より永く使っていただくためにとても大事にしていることです。
歴史と共に培われた確かな技術力
ーー自社で製作した家具を修理することは今までのお話でわかりましたが、他社の製品を修理することを始めたきっかけはありますか?
高度経済成長期で日本は大量生産・大量消費の時代を過ごしてきました。ところがその時代が終わりを告げようとしたときに、愛着あるモノ、継承していきたいものを直して使いたいと思ったときに、それを可能にしてくれるところが無かったのです。
私たちは1998年に「家具の病院」という修理部門を立ち上げましたが、実はそれ以前から他社メーカーの家具修理も行なっていました。ただ、より多くの方にわかりやすくする為に、「家具の病院」と称したことが今につながっています。
また、昔の職人は生涯現役という方が多くいましたが、現代は60歳ないし65歳で定年退職を迎えます。その時期を迎えた職人の中には「自分たちの親方や先輩は80歳まで現役だったのに、自分は定年後のあと20年、何をしたらいいのか?」と不安を抱える方も多くいたのです。そこで、私たちの事業にお力添えいただけないかとその方々にご協力を呼びかけたところ、その声に応じてくださったのは、丁稚奉公から修業を積み、様々な家具に触れてきた経験豊富な職人たちでした。その職人たちとともに「家具の病院」が生まれたのです。
ーーなるほど。定年の年になってもまだ働きたいという経験豊富で能力のある人を集めて修理のブランドを立ち上げたんですね!!
そうですね。もう一つは職人にそのまま定年後も残っていただくことによって「ダニエル」の家具を作る既存の若手に技術が継承できるということもあります。他にも最近凄く良いと感じることは、他で直せなくなっているアンティークになり得る家具の修理ができる知識があるということです。歴史のある家具を修理しようとすると、馬毛が出てきたり、単独のスプリングコイルの仕様になっていたりするので、現代の家具を修理している人にはない技術が必要なんです。昔の構造等は、経験と知識を持った職人だからこそわかることなので、大変助けられていますね。
ーーそれは確かに相当前の話ですね。
はい。日本で言えば戦前や60~70年前の家具が入ってきたりもします。他では直せないと判断されたものも、熟練の職人たちが残っていることで、大抵のものは修理ができます。
また、若手もその仕事を近くで見ることができるので、しっかりと家具を直すというお客様のご要望にお応えしながら、若手の学びの場にもできるというのは、「家具の病院」の強みだと思います。
現代社会で「ダニエル」が担う役割とは
ーー世界でサスティナブルという言葉やSDGsという目標ができて、良いものを永く使おうという動きが広まってきましたが、ダニエルで取り扱う家具は以前からずっとサスティナブルな家具だったんですね。
今でこそ、エコやSDGsと呼ばれていますが、持続可能な生活環境や目標について、我々は家具を通じてですが本当にずっとやり続けてきました。ですので、当たり前と言えば当たり前のことをしているのですが、時代がそういう流れに乗っているというのは、とても良い環境にあるなと思います。
また、永く使いたい時に直せる人がいないと、継続して使い続けるのは難しいと思います。ですので、家具の修復や修復技術者を育てるということは、私たちが責任を持って担える役目の一つだとも思っています。
「家具の学校」が次世代に継承する文化
ーー「家具の学校」ではどのようなことをされているのですか?
「家具の学校」は、元々「家具の病院」の付属機関になるのですが、一般の方がDIYの延長線上でモノづくりを楽しんでいただける場を提供するという一方、修復の技術を学ぶ場として、修理が出来る人たちを増やし、育成することも兼ねて行っています。
ーー制作と共に新たな人材を育成してまた技術を繋いでいくということですね。
今でこそ、買い換えるのが当たり前の世の中になってしまいましたが、家具を修理・修復できる人が増えれば、また昔のように直して使う文化が育つのではないかと思っています。
ーー店舗の正面に作業場がありますが、なぜこの場所に作業場を作られたのですか?
道路に面した部分は、通常ディスプレイとして目玉商品や売りたい商品を置くと思うのですが、私たちはその場所で定期的に職人が作業するようにしています。道行く人にあえて職人の技術を見てもらうことで、「ここならあれを作ってもらえるかもしれない」という新たな可能性が見つかったり、確かな技術を実際に見てもらうことで信頼にも繋がるのではないかと思っています。
また、次世代を担う子供たちや若い人たちが、職人の技術を見てかっこいいなと興味を持ってくれたら、それが未来に技術を繋ぐ最初のきっかけになると思うのです。
未来を見据えた「ダニエル」の想い
ーー最後に今後「ダニエル」が目指す未来はどのようなものですか?
これからの家具の未来は、カタログや展示会場で見たものを買うというよりは、オーダーメイドやカスタムをして、自分のこだわりを生かしたものが主流になると思っています。そうしてこだわり、選ばれた家具たちは、きっと破棄されずに次世代の方にも使ってもらえるということを、私自身すごく肌で感じています。
私たちはお客様のオーダーメイドのご要望に応えることができる環境にあります。こだわりを持っている方や、モノを大切にしたいという方たちの希望に一つ一つ丁寧に向き合っていれば、そういう方々の受け皿として求めていただける存在になっていけると思っています。
株式会社ダニエル 代表取締役社長 咲寿 義輝
家具の修理を承る際、実際にお客様のご自宅に足を運ぶこともあるという咲寿さん。
家具は直しすぎてはいけない、そこで共に過ごしてきた思い出の痕跡をなくすことなく直すことは難しいけれど、とても大切なんですよね。そう語る咲寿さんからは家具への優しく暖かな想いを感じました。