職人体験記

工房取材!『KOSAKACRAFT(コサカクラフト)』小坂さんにインタビュー! 『システムエンジニアから家具職人への転向』

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「KOSAKACRAFT」工房訪問記

今回はKOSAKACRAFT(コサカクラフト)を訪問し、小坂さんにいろいろと聞いてきました。KOSAKACRAFTならではの雰囲気をご確認下さい!

 

いつ頃から始められた工房ですか?

2016年の11月から始めたので、ちょうど3年ですね。
実は、以前は木工とは全く関係のないIT業界にいました。大学を卒業してからだいたい13年くらいですかね。木工をやっている期間は、独立前を含めても10年間くらい。だからまだ木工の方が期間が短いんです。

 

IT業界から木工職人とは、思い切った方向転換ですね。

そうなんです。システムエンジニア、ネットワークエンジニア、WEBディレクターなど、IT業界の発展とともにいろいろ経験しました。
そんな中で35歳くらいの時に将来のことを考えて、全然違うことをやりたくなったのです。


 

なるほどそういう経緯なのですね。

以前から、物を作るのは好きでした。エンジニア時代も子供のためにDIYで本棚を作るなどしていて、それがとても好きで楽しかったのです。
それで「やっぱり仕事にしたいな」と思い調べてみたところ、職業訓練校を見つけ、そこに1年間通いました。
 

職業訓練校に通うことに対して、ご家族はどのような反応でしたか?

反対されるかと思って説得しようとしましたが、意外とすぐに理解してもらえました。「いいよ」言ってくれてすごくうれしかったです。
訓練校を卒業してからは、インテリアの街として有名な福岡県大川市の木工所で働かせてもらうことになりました。修行時代ですね。


 

福岡にはおひとりで行かれたのですか?

いいえ、家族みんなで大川に引っ越しました。

 

決断力がすごいですね。悩まれたこともありましたか?

悩んだ時間は結構長く、1年位は考えました。
悩んで、悩んで……でも決めてからは早かったですね!

 

奥さまはもともとデザインをされていたのですか?

私はもともとインテリアの専門学校を卒業して、展示会のディスプレイデザインの仕事をしていました。でも、ディスプレイは展示が終わるとすぐに壊されてしまうので、それがすごく嫌だったんです。「長く続けられないな」と思っていて、「もっと人の生活に近いところでインテリアに関わる仕事をしたい」と思っていました。
だから彼が「木工の仕事をしたい」と言った時に、私が家具のデザインを学び、「ふたりで独立できるといいね」という話になり、最初からビジョンを持って大川へ修行に行きました。


 

新しいことを学んで、ふたりで独立できる環境を作っていかれたのですね。

お互いによい環境の職場が見つかって本当に恵まれていたと思います。
私は、子どもがいても設計の仕事をさせてくれる会社に出会い、そこで勉強しました。
ふたりが別々のことを勉強して、それがちゃんと独立への流れになっていったのです。

 

作品を拝見して、ご夫婦の感性の相乗効果を感じました。

構造的な部分では僕が決めることもありますが、デザインに関しては僕は何も言いません。構造以外の部分は任せて、とにかく彼女のデザインした物を形にしていきます。


 

以前、木工yamagenさんの取材の際にも感じましたが、ご夫婦で作品づくりをされている方は、関係性がとても素敵です。

小坂さんもお互いに尊敬しあって、意見を言える雰囲気がとても素敵ですね。

もめるときはもめますけどね。笑
でも、しっかり分担していることもあり、喧嘩にはなりません。
お互いの領域に干渉しないようにしています。
受け持ち領域が被っていると、喧嘩になる職人さんも多いですよ。
良くも悪くもお互いの仕事がわかりすぎてしまうのだと思います。

 

そうですよね。
独立の際は、どのような家具を作るかというコンセプトはありましたか?

『いかにも木工家さんの作った家具』という家具はあまり好きではないので、お客さまに寄り添った家具でありつつ細部のこだわりを意識して作っています。

お客さまに寄り添うために、まずは徹底的にヒアリングをします。
例えばチェストであれば、ただ「引き出しがある」のではなく、使う人のライフスタイルに合わせて寸法を設計します。使いやすさをベースに、きれいに見える細部のデザインに気を配るのです。

 

生活に寄り添った家具でありつつデザイン性も重視されていることがとても伝わります。家具の使いやすさはとても大事な部分ですよね。

自宅をできるだけ自分で作ったことが大きかったかもしれません。家具や作り付けの収納、扉まで自分で作りました。
「自分でやってみる」ことはとても大事です。おかげでお客さまへのご提案もしやすくなりました。自分が実際に使っているので、説明もしやすいです。

 

次にオススメの作品を教えていただけますか?

オススメは、このスツールです。
「キッチンで使えるスツールが欲しい」と私自身が思ったことがきっかけで作りました。
キッチン以外の場所にもしっくり馴染む、シルエットが綺麗でコンパクトなスツールです。
脚が広がり過ぎないのがポイントなんです。


 

スツール制作の際に試行錯誤されたところを教えていただけますか?

スツールに限ったことではありませんが、新しい物を作る時はやはり苦労します。
必ず何かしらのチャレンジ要素があるのです。
この「チャレンジ」が大切で、チャレンジすることで毎回ステップアップできるのです。

 

制作時のこだわりを教えていただけますか?

同じものを安定して作れるように、『治具(じぐ)』と呼ばれる、正確に速く作るための道具を作っています。角度や形などを記憶する器具と言ったらわかりやすいかもしれません。「なんとなく合わせて、なんとなく削る」という作り方をすると、全く同じものをもう一度作ることはできません。治具があれば何度も同じものを作ることができ再現性を保てます。

製品の数だけ治具は増えていくので、置き場所を確保するのが大変ですけど(笑)。
ただ、毎回必ず同じものが作れます。「前はうまくできたけど、同じスツールをもう一度作ったらうまくできなかった」ということは絶対にないようにしたいですね。

 

治具を取り入れられた理由はありますか?

「スツールを5脚ほしい」というような数の多いオーダーにも速く正確にお応えしたいからです。治具を使えば、速く正確に、同じものを失敗なく複数作れます。時間短縮のためにも、とても合理的な方法なのですよ。

 

デザイン担当の奥さまにも、そのようなこだわりはありますか?

一番大事にしたいのは、「お客さまのご要望を全部盛り込んだ上で、美しいもの」を作るということです。できるだけお客さまがやりたいと思う要素は削らずに、解決法を提案したいと思っています。
 

奥さまが思う「美しさ」とはどんなものでしょうか?

デザインのバランスや細部の仕上げですね。
座面の大きさなど、バランスが大事なのでベストなサイズを考えてデザインします。このスツールは、窓辺に置いた時シルエットが綺麗に映えるように、脚の形状で浮遊感を出しています。


 

ほかの特徴やこだわりもありますか?

ほかには、座面部分の彫り込みの深さですね。
3ミリ程度、彫っているのですが、彫り込むだけで座り心地が全然違います。
彫り方は、ドーナツ型の丸い治具を使って少しずつ深さを変えて彫っていきます。

 

スツールですから「座る」ことが大前提ですが、ほかにもオススメの使い方があれば教えていただけますか?

インテリアとして、大小並べて窓辺に置いて、シルエットを眺めてみて欲しいです。


 

観葉植物などを置いても素敵だと思います。
逆光の中、ソファに座りながらシルエットを楽しむのはとても贅沢です。


 

ありがとうございます。次のオススメの作品を教えていただけますか?

ダイニングテーブルを紹介したいのですが、よければ自宅で紹介したいのですが大丈夫ですか?
 

逆に自宅にお邪魔して大丈夫ですか?

大丈夫です。
 

ありがとうございます!それではよろしくお願いします。このダイニングテーブルのこだわりを教えていただけますか?

まず、無垢のダイニングテーブルはゴツくて太いものが多いのですが、それを軽やかに見せるために丸脚のテーパードにしています。天板のエッジもかなり削いでますね。


 

分厚い素材をいかに軽やかに見せるかを考えています。
ほかには、反り止めに金属使っていません。その代わり蟻桟(ありざん)という、蟻の形に掘ったホゾ穴に桟を差し込んで板の反りを防止する方法を使います。

 

ほかにもこだわっている部分はあるのでしょうか?

貫(ぬき)と呼ばれる補強材を使っています。これを使う事によって脚がバタつかず強度が上がります。


 

その貫(ぬき)を入れると変わるのですか?

全然違いますね。
強度面も見た目もすごく素敵なんです。

 

ほかにもこだわっている部分はありますか?

構造のことばかりですが、駒留(こまどめ)と呼ばれる手法を使っています。
無垢材の天板は湿度によって伸縮を繰り返すのですが、その動きを妨げてしまうと天板に割れが生じてしまいます。
天板の動きを止めないように固定する手法です。
無垢家具ではオーソドックスな手法ですが、最近はやらない家具も増えています。


 

構造に対するこだわりに驚くばかりです。

無垢の家具だからこそ、ていねいに作らないと不具合が出てしまいます。長く使っていただける工夫をしています。

 

オススメの使い方を教えていただけますか?

脚を極力外に出すようにして、いわゆる「お誕生日席」の部分に座りやすく設計しています。

 

デザイン性をと使いやすさの両立は本当に素敵ですね。

我が家は家族が多いので、「フレキシブルに座れるテーブルを」と考えました。奥行きも広めの設計です。
 

ダイニングテーブルはご家族で使われる物なので長く使っていただきたいですね。

そうですね。ダイニングテーブルは毎日使うものですし、家族の歴史書みたいなもの。
うちで使っているこのテーブルも、もう7年になるので、こういう輪染みも良い思い出です。もちろん、削ってきれいに直すこともできますけどね。


 

ありがとうございます。次に工房を見せて頂いても良いでしょうか?

こちらが工房です。
まずはお客様と打ち合わせをして図面にします。それを僕が作っていく流れです。


 

見積もりをしてから材料の選定をします。材料はホワイトオークやウォールナットなどのほかにもいろいろあります。最近人気なのはブラックチェリー。お客さまに選んでいただいたものを製材していきます。


 

あとは平面を出す機械を使って木材を加工していきます。

 

これで最初の部材を作るのですか?

そうです。荒い材を整えて面を出して厚みを整えていきます。


 

そしてまずは基本的な角材ができあがります。


 

平面を出して厚みを決める、ここが基本になります。
それからこの横切り盤を使って長さを決めて切っていきます。


 

切り口を斜めに切りたい時は、角度を変えて切ることもできます。この時に治具を使ったりマグネットを使って切り口の角度を調整したりします。


 

こちらは角ノミ盤とボール盤という穴を開ける機械ですが、これもマグネットを使って材料を固定します。


 

マグネットで固定するのは初めてみました。

同じ位置に穴を開けたい時にとても便利で、ほかの職人さんにもオススメしたいですね。
僕もこれを使っている職人さんを真似て使い始めたんです。


 

職人さんはプライドが高いイメージで、ほかのやり方を吸収しようとする方は少ないのかと思っていました。

僕は結構ベテランの職人さんのところにお邪魔して工房を見せてもらっています。
独立を考えた年齢も遅かったので、職人さんを尋ねて知恵や知識を拝借して、使える技術は使おうと思っています。
もちろん何年もかけて経験を積まないと身につかないこともあります。でも、そうでない部分は早めに吸収しようという気持ちでやっています。

 

前職の経験から、必要なノウハウを早めに習得しようという考え方があるのですね。

それはあると思いますね。全ての経験は無駄ではありません。
それでは、次の機械なんですけど、これはルーターテーブルといいます。

 

この機械は真ん中の刃物の部分が回って、面を取る加工をしたり、溝を切ったりするのに使います。
刃物はたくさん種類があって、いろいろな加工ができるので重宝する機械です。


 

一番奥にあるのがプレス機と呼ばれる機械です。


 

これで材料にボンドを塗って圧着させたり、組み立てに使ったりします。
たとえばスツールなら、こんな感じでプレスして脚を圧着させます。


 

組み立ての圧着は怖いですよね。

そうですね。かなりの重さで圧着しますので少しでも間違うと折れてしまいます。
折れたら終わりなので細心の注意を払って組みます。

 

ほかの工房とは違う特徴があれば教えていただけますか?

日本にはあまりない製品なんですけど、この電動工具はアメリカから輸入したものです。


 

トリマーと呼ばれている工具で、ベースを取り換えることで、さっき紹介したルーターの「小型版」になります。


 

面取りや溝掘りがメインですが、先ほどのテーブルに固定されたルーターと違い、小振りで軽いので、細かい加工などに重宝します。

 

最後の仕上げは鉋(かんな)を使われるのですか?

そうですね。最後は鉋をかけてからペーパーを当てて仕上げという流れです。
鉋は表面を仕上げるのに必要で、これをしないと生地が整いません。

 

「生地が整わない」というのはどういうことですか?

ナイフマークと言って、機械だけで加工すると回転する刃で平らにしているため、少し波打った感じの跡が残ります。それがあると、手触りやオイルののりが悪くなってしまいます。


 

ありがとうございます。最後にコラムの読者に一言よろしいでしょうか?

オーダー家具は、まだまだ馴染みがないモノでありコトだと思うんです。ですから、興味を持ってくださった方とぜひお話をしてみたいです。

よくわからないから敬遠したり敷居が高いと感じられたりする部分もあると思います。
始めは相談だけでも構いませんので、ぜひ作ってみたい家具のお話を聞かせてください。

一生大事に出来るような宝物みたいな家具を、一緒に作れたら最高ですね。

 

小坂さんありがとうございました!

 

KOSAKACRAFT
〒357-0044 埼玉県飯能市川寺420-2
Tel:042-978-8590
Fax:042-978-8553

 
 

Writer Profile


Takuto Suzuki
Inte-code.inc所属のインテリアコーディネーター。1991年静岡県生まれ。北欧インテリアショップの販売職を経て、inte-codeで空間のコーディネートを行う。その経験をもとにインテリアショップ体験記の運営、取材を担当。

 


Yoshiaki Ogiwara
インテリアショップ体験記のカメラマン、編集、取材を担当。
アパレル業界で10年働いた後、現在インテリアの勉強をしながら独立に向けて日々精進中。

 

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